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第50話

 まず、先生と話をしよう。それからその人のところに行っても遅くはない。何か理由があるのかもしれない。何もしていないかもしれない。俺だけが先走って、あの繊細な人を傷付けたら困るから。俺は放課後の時間を利用して数学資料室に行った。相変わらず人気のない廊下。先生はいつもこんなところにいて淋しくはないのか、等と考えているとちょうど向こうからやってきた先生とばったり会った。先生は一瞬後ずさる。なぜ、と思うと、なんとなく頭に来たが顔には出さず、俺は彼をじっと見つめた。 「……何か用か?」 「用があるから来たんだよ。中に入って」  高圧的な俺の態度に怒るわけでもなく、先生は中に入れてくれた。いつものように鍵を締める。先生は手にしていた本を机に置くとそのまま俺の言葉を待っていた。東田先生が言っていたように顔色が悪かったが、俺の気は昂ってしまっていて、そのことを思いやってやれることができなくなっていた。 「……用って?」 「裕貴さん、何で歌舞伎町にいたの?」  背中が不自然に揺れる。校庭にいる部活中の生徒達の掛け声が聞こえる。先生は慌ててブラインドを落とすと俺の方を見た。だが視線は外したまま。巧の話は本当なんだ。俺は努めて冷静に続けた。 「誰? 一緒にいたのって」 「君が……見たのか?」 「誰が見たのかは関係ない」  先生は寒さを堪えるように身震いして、視線を逸らした。何度も唇を濡らして、明らかに焦っている。 「私はそんなところに行ってない」 「失神して連れて行かれたのはラブホテル。その後、その男の店に入っていったよね」 「……知らない」  俺はスマホを取り出して地図の画面を先生に見せた。 「俺、これからその人の店行くんだけど。それでもまだ白を切る?」  先生はすがるような目で俺を見た。それでも、すべて暴かないと気が済まない。この人は俺の恋人だ。 「そいつに抱かれてるんだよね。俺と付き合い始めてから。いや? 始める前からも?」 「……藤田、それは……」 「事実だけを言えよ!」  俺は壁をドンと叩いた。先生はびくりとして、身体を縮こまらせる。俯いて、更に顔を青くさせて小さな声で言った。

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