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第57話
「アンタさ、裕貴さんを独占したいからって、彼に適当なこと言ってんじゃないよ」
俺と深沢さんはユリさんを見た。ユリさんは眼帯をした目が痛いのか手を押し当てていた。
「ユリ。大丈夫か?」
「……大丈夫」
深沢さんがユリさんの肩を掴んだ。少し俯き加減でとても辛そうだったが、ユリさんはそれ以上何も言わなかった。深沢さんが先生を?
「アンタ、誰? 裕貴さんの何?」
俺はもう一度噛みしめるようにその言葉を言う。
「恋人です」
ユリさんが驚いたようにこちらを見る。しばらく俺を眺めた後、小さくため息をついた。
「……賢史の言う通りにしな」
「どうしてですか?」
「アンタ、彼の生徒だろう? 高校生だろう。高校生にあの人の面倒は見られないよ。無理。賢史ならあの人をいくらかは満たしてあげられる」
「先生は俺と付き合うって言ったんです。俺が面倒を見ます」
「心に傷がある人と付き合うってのはね。めちゃくちゃ大変なことなの! 自分が潰れちゃうかもしれないよ? アンタはこれから先があるじゃん。それ、裕貴さんに言われなかった? 当然言われたはずだよね。付き合うって言ってもアンタが疲れ切って離れていくのを待ってるだけ。もうセックスしたの? したんだったらさ、満足でしょ。もう離れなよ。それがお互いのためだから」
「心に傷……」
ユリさんは深沢さんを振り向いた。
「賢史、この子、何なの? 全然裕貴さんのことわかってないじゃん!」
「あー……」
深沢さんはユリさんには形無しのようだ。深沢さんはグラスに酒を注いでそのまま飲み始めた。
心に傷。気付き始めてはいたけれど……。そんなに傷ついていたのか。度々失神してしまうくらいに。誠実な人なのに。約束を破って深沢さんに抱かれてしまうくらいに。俺は痛むくらい拳を握りしめた。
「アンタ、体育会系でしょ」
「あ、バスケ部です」
「あーもう。ダメだ。体育会系なんて大雑把で何にも考えてない。無理だって」
「ユリ、言い過ぎ」
「アンタもだよ」
ユリさんは静かに怒っていた。先生のことを嫌いなくせに、とても心配している。俺のこともめちゃくちゃ言ってるけど、先生のことが心配で言ってくれてるんだ。俺は頭を下げた。
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