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第62話
「……アンタさ。『窮鼠猫を噛む』って諺、知ってる?」
「まぁ、一応。でも俺も切羽詰まってたんです」
「まぁ……。僕にはどうでもいいことなんだけど」
「追い詰め過ぎ、ですかね」
「いや、許したのは立派だよ、その歳で。でも、どうなるんだか」
十二月に入ると街はクリスマスモード一色になる。
先生とはうまくいってる。そう思っていた。学校でもたまに数学資料室で話をしていたし、夜にも電話をすることがあり、先生とは穏やかな前の感じに戻っていっている気がしたのだ。だが先生が俺を欲しがることはなく、そこは少し心配だった。また深沢さんと寝ているのか、そう思わないこともなかった。だがあれだけ釘を刺したし、先生も「一緒にいたい」と言ってくれていたのだ。今度裏切ったらただじゃ済まないことくらいわかっているだろう。俺は大分安心していた。
心の傷についても話をしてくれることはなく、些細なきっかけを与えてもわからないフリをしている。どんなにひどいことがあったのか知る術もなく、もしかしたら百合さんが少しでも教えてはくれないかと連絡をしてみた。百合さんは「知らない」と言い切り、深沢さんに口止めをされているようだった。俺が知らなくて、二人が知っているのは何だかおかしい気がする。それを先生に言いたかったが、うまく行ってるところなのに、また気まずい思いをするのは嫌だった。待つしか方法はなかった。
高校生が店に来るのを当然ながら百合さんは嫌がり、彼に余裕がある時連絡をもらえるように言っておいた。その機会はすぐに来た。店が休みで深沢さんが外泊をするとのことだったのだ。百合さんの機嫌の悪さはハンパなく、俺はかなり気を遣いながら話をしていた。深沢さんの外泊は、百合さんの地雷らしい。二人は恋人のようでやはり恋人ではなかったのだ。目測を誤ったな、と思いつつ、俺は百合さんと食事をしていた。
「浮気したら許さないとか、そういう次元の話じゃないし」
「はい?」
「裕貴さんはそういう人じゃないよ。必要に迫られて賢史と寝てるだけ。恋人はアンタだし、アンタのことが好きだと思うし。あーでも、あれか。ほら、賢史のテクがめっちゃイイとかだと勝ち目がないね。アイツ見た目そのままの男だしね」
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