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第65話

 店を出た後、百合さんは少し酔ったのか、俺から離れなかった。身体全体でもたれるようにしているから、つい心配で部屋に送ることにした。先生よりも更に小さくてかわいらしい百合さんを、もし先生がいなかったら、などと考えてしまう自分も本当にバカなのだが。 「……ねぇ、しようよ」  そんな気持ちを見透かしたように、百合さんは俺の腕を引く。深沢さんのことを好きなのに、どうしてこの人は他人に手を出そうとするのだろう。そこで俺のことを少し考える。先生が俺を好きだとして。なぜ先生は深沢さんを欲しがるのだろう。快感? 淋しさ? 焦り? そのどれもが当てはまっていて、当てはまっていないようで、俺は更に頭を悩ませる。 「百合さんの家、知りませんよ」 「……遼一……」  見上げた瞳が街の灯りに反射して潤んでいる。誘われている。けれど、何ともその気になり難く、俺は先生のことを考えては悩み、それ以上に今すぐに会いたいような気がした。聞きたい。なぜ俺ではダメなのか。深沢さんには許したのか。明日は休みだから外泊してもいいとして、まずは百合さんを送ってから先生に連絡をするしかない。腕時計を見ると八時だった。 「そんなに裕貴さんに会いたいんだ」 「え?」 「遼一はすぐ顔に出るね、考えてること」  百合さんは道路まで俺の手を引き、片手を上げタクシーを止めた。俺は百合さんをシートに座らせたが、腕に掛けた手を放してもらえず、首を傾げた。 「百合さん?」 「気持ち悪い。部屋まで送って」  全然具合が悪そうじゃない。その代わり機嫌は悪いようだ。俺は仕方なく引きずり込まれるようにタクシーに乗り込んだ。  百合さんは「気持ち悪い」を連発して、結局、俺はタクシーを一緒に降りた。そんなに遠くはない、割と人通りのある道の脇に立つマンションはシックな感じで二人にとても合っていた。二重のセキュリティを抜けて、俺達はエレベーターに乗る。十四階を押すと百合さんはまた俺に凭れてきた。甘い声で俺の腕に縋る。 「ちゃんとベッドまで送ってくれないと倒れちゃう」 「はい、わかりました」 「んー、いい子」

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