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第66話
完全にからかわれている。だが深沢さんが外泊だと言っていたし、一人の部屋は淋しいのだろう。とりあえず眠るまでは付き合ってもいい。そう思いながら部屋の前まで来た時だった。鍵を取り出し、差し入れた途端。百合さんが急に俺の腕から離れ、しっかりとした足取りでドアを開けた。
「ごめん、ここで帰ってもらっていい?お金、渡すから」
「ああ、構いませんよ。具合はもういいですか?」
「うん。ありがとう」
百合さんが急にこちらを向いてドアを閉めようとしたが、そこで俺は見てしまった。百合さんの足元にある二つの靴。一つは見覚えのある、あれは箱根旅行で見た……忘れるはずもない。
「ダメ! 遼一!」
俺を押し出そうとする百合さんをむりやり退かして部屋の中へと入りこんだ。リビングを出て三つの部屋のドアを片っ端から開けていく。一番奥の部屋を開けると大きなベッドの端に座っていた上半身裸の深沢さんと目が合う。
「藤田くん」
深沢さんが反射的に横になっている人の頭の上まで布団を上げて隠す。俺はずかずかと入っていき、その布団をはがした。事後、そんなに経っていないのだろう。しっとりと上気したほんのり赤い肌で眠り込んでいる先生を見付けた。俺はかっとして彼の肩を揺さぶった。もう許せない。もうしない、と約束したばかりでこれか。泣きたいくらいの怒りで俺は彼を怒鳴った。
「おい! 裕貴! いい加減にしろよ!」
「……藤田……?」
いきなりのことでよくわけがわからない先生はぼんやりとしていたが、すぐに状況がわかって布団を握りしめた。
「約束したよな! もう彼とは寝ないって。なぁ!」
「藤田……」
「何で約束守れねぇの! 何で俺とはダメなのに深沢さんならいいの!」
震える先生の肩に布団を掛け、深沢さんはシャツを着た。
「藤田くん、ちょっと」
「俺と先生の問題だ! アンタの出る幕じゃねぇよ! だいたいアンタもアンタだ!」
「いいから。そうでないと裕貴はまた発作を起こす」
そう言われて俺はぐっと怒りを留めた。あの苦しそうな表情。あんな思いはもう二度とさせたくない。言いたいことは山程あったが俺は深沢さんに連れられて部屋を出た。リビングには百合さんがいて、俺に同情的な視線を送ってくる。
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