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第67話

「裕貴と別れてくれないかな」  突然の言葉に俺はびっくりして深沢さんを振り返った。深沢さんは真面目な表情で、いつもの笑みはなかった。 「……何、言って……」 「裕貴は限界なんだよ。君のことを想っていないわけじゃない。本当は君のことが一番好きなんだ。だから……」 「やめてくれ!」  乱れてはいるもののスーツを着込んだ先生が突然現れて、深沢さんの言葉を遮った。 「……藤田、すまない。私は……ずっと深沢さんのことが……」 「裕貴、送ってくから。ほら、行こう」 「裕貴! 待てって!」 「遼一! ちょっと待って!」  四人の言葉が交錯している中、深沢さんは話し掛けるのを許さないように先生を抱えて出て行った。ドアが閉まる音が聞こえ、俺は気が抜けたようにソファに崩れ落ちた。 「何でだよ……裕貴さん……」  涙が出そうになると百合さんの細い指が目元を覆った。その手を思わず握りしめ、俺は心臓の音を沈めようと深く息をした。急に百合さんが俺の膝の上に乗る。俺の首に手を絡めて覗き込んできて、俺は顔を背けた。 「遼一……。泣かないで」 「泣いてなんか」 「泣きそうじゃん」  百合さんの唇が俺のまぶたに触れる。驚いて俺は目の前の百合さんを見た。いつもの冷たい表情ではなく、真剣に俺を見つめてきて、俺は不謹慎にも胸が高鳴った。 「遼一、しよ?」 「百合さん」 「君は裕貴さんが好き。僕は賢史が好き。でも実らない想いもある。僕も淋しい。いつも淋しい。だから」  赤く、温かい唇が俺の唇を覆った。ふわりと舐められて、歯をなぞられる。優しくて熱い。 「百合さん……」 「ね、だから慰めて……?」

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