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第68話

 先生の顔が百合さんに重なる。ずっとずっとキス以上をしたかった。俺のものにしたかった。下半身が疼く。 「百合さん!」  ソファに百合さんを倒して、その上に重なる。背に回された指が震えていて、なのにもっと乱暴にしたくなる。喉に歯を立てると百合さんのモノも少し膨らんだ気がする。存分に喉を味わいながら、俺はシャツのボタンを外していく。潜り込ませた指に吸い付くような瑞々しい素肌が俺を昂らせる。小さくて赤い乳首を少し強く噛むと百合さんは聞いたことのない、甘い高い声を上げた。 「あっ……んっ……いいっ」 「百合……」 「もっと……して……遼一……」  細い腰のライン。なぞるほどに激しくしなる身体。白い肌。ジーンズのボタンを外した瞬間、俺ははっとする。 「……どうしたの? 遼一」 「……ごめん! ごめん、百合さん!」 「……え?」  百合さんから飛び退き、シャツを閉じる。そのシャツの上に額を付ける。どうしたんだ、俺は。  先生のことが好きで好きで。ずっとあの人を尊重して我慢して。ここで百合さんを抱いてしまったら、俺も先生を裏切ったことになる。俺は恋人を裏切りたくない。先生には先生の理由があって深沢さんに抱かれてる。今は我慢するしかない。先生からすべてを聞くまでは。俺は先生を見捨てないし、救えるなんて自信はないけど、一緒にいて心が落ち着く相手になれるよう努力したいんだ。 「……っと。まったく。チッ」  百合さんはいきなりいつもの表情に戻って、俺を押しのけてジーンズのポケットからスマホを取り出した。どこかに電話を掛けている。 「賢史、今どこ?」 『今からここを出る』 「あのベッド使わないでよ! 何度も言ってるでしょ!」 『済まない、急を要して』 「あのさぁ。裕貴さんはどうなの。遼一のことどう思ってんの」  腰に手を当てて、俺に背を向けている。互いの会話が丸聞こえだ。俺は耳を澄ませてソファに座った。 「もう僕に迷惑掛けないでよ! ああもう! 僕が誘って落ちないのって、賢史と遼一だけだよ! あったまくる!」  一方的に百合さんは大声で捲し立てる。多分、向こうにもよく響いていることだろう。

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