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第70話

「かわいそうだって思う?」 「いえ。……思わないです」 「そっか。先生のことはかわいそうって思う?」 「……それも、ないですね」 「そう。同情はないんだ」 「いえ、何も知らないですから」 「ふーん。……よかった」 「え?」  百合さんは珍しく柔らかい笑みを零した。 「同情なんか何の役にも立たないんだよね。腹括んないと、ダメな時なんだよね、裕貴さんも、遼一も」  僕も、と音は無かったが、聞こえたような気がした。 「遼一、裕貴さんは過去にいろいろあってね。まぁ傷を見た時にある程度わかったとは思うけれども。だから、それを聞いて離れるも離れないも遼一の自由。でも、できたら一緒に生きていってくれたら、と僕は思う。裕貴さんは今まで一人で生きてきた人。でも一度は遼一と付き合うと言ったんだから、本気だと思うし、あの人にも責任がある。二人がうまく行くよう、願ってる」 「百合さん……」 「賢史から離れてくれたほうが僕も助かるし」 余計なひと言を付けたしているが、それが百合さんの本音なのだろう。俺はしっかりと頷いた。 「賢史もわかってるけど、裕貴さんは遼一のことが本当に好きみたい。だからどんどんおかしくなって賢史に頼ってる。でも、あまり怒らないであげて。まぁ……好きな人が浮気ってね。許せないけどね」 「裕貴さんが、俺を……?」 「裕貴さんが話してくれる時があると思うよ。今は少し、待ってあげて」

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