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第71話

 深沢さんのマンションを後にして、俺は家に帰る。随分と感情が揺さぶられて疲れてしまった。けど、こんなふうに先生も激しく揺さぶられていたとしたら? 揺さぶられ続けて疲弊しているとしたら? それは誰かに頼りたい、いや頼らなければ壊れてしまうだろう。 なぜ俺は高校生なんだろう。あの人との年齢を考えてみても何の役にも立たないが、今はこの差が呪わしい。深沢さんみたいに何もかもを預けてしまえるような人間になれるには、どうしたらいいんだろう。あと、どのくらいかかるのだろう。それは途方もない時間のような気がした。  家に帰って一風呂浴びた後、俺はベッドに転がってぼんやりとしていた。スマホの音が鳴って、一瞬、びっくりする。先生の電話だ。俺は一呼吸置いて、通話ボタンを押した。 『あ、オレオレ』 「……何で深沢さんが先生のスマホから俺に掛けてるんですか」  不機嫌な声でモロに深沢さんに当たった。今夜は先生の部屋に泊まると言っていた。時計を見ると夜十一時。嫌な気持ちにしかならなかった。 『裕貴と話をしてね。俺達、もうそういうことは止めようって』 「……そうですか」  それをなぜ深沢さんが言う。じゃ切りますよ、という俺に慌てて言葉が重なる。 『それで君に合わせる顔がないって言って泣くから、俺が代わりに電話した。代わっていい?』 「裕貴さんに?」  俺と話ができる状態には見えなかったが。向こうはやけに静かで、しばらくすると先生の掠れた声が聞こえた。 『……藤田……』  やはり胸が痛くなる。こんなにも。声を聞いただけなのに。先生は一生懸命、言葉を探していた。 『本当に……ごめんなさい。全部……藤田に話したいから……。できたら、今から会えないかな……』 「会うよ。どこに行けばいい?」  いつもなら先生としての余裕を見せて、生徒の俺を気遣うのに、この時間から会いたいというのは「野村裕貴」としての気持ちだ。もちろん、会わないわけがない。俺の大切な恋人だ。 『ありがとう……もう会ってくれないかと思った……。私がそちらに行くから』 「それは構わない。俺が裕貴さんの部屋に行くから」 「でも……こんな時間に……」

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