73 / 110

第73話

「私はこういう身体だろう。スポーツをしたくてもユニフォームでは傷が目立つ。それが嫌で体育の時間も長袖、制服も一年中長袖。成人して教師になって、どんなに暑くても、ずっとそうしてきた。だからスポーツをしている人を見るのが好きだった。この高校に来て、やっぱりスポーツをしている子に目が行ったよ。君はその時一年だった。でももうすでに上級生と一緒にプレイしていて。健やかで伸びやかで、嬉しそうに楽しそうにバスケットをしていた。とても羨ましかった。ずっと見ていたかった。私は君を見るたびに嬉しくて……同時に辛かった」 「……辛い」 「それまで、苦しくて、そういう時には誰かに抱かれたくなった。私は誰かに必要だと言ってほしかったんだ。……身体だけでも。正直、女性と寝たことはない。そういう雰囲気になっても、この身体を見ると退かれてしまうんだ。そのうち男性から声を掛けられるようになって……でも、この傷を見ると、萎えちゃうんだよね。男性の方がそこは残酷だな。顕著に身体が嫌がってるからね。私と寝てくれた人のこと、みんな覚えてる。だって数人しかいないし、私に乱暴なことしかしなかったし」 「……裕貴さん……」  これが深沢さんと百合さんが言っていた心の闇の一部という訳か。俺には到底理解し難いことではあったが、先生が語り終えるまで、なるべく口を挟まないようにすることにした。先生にしても、やっとのことで話しているのだろう。あの寡黙な人がここまでしゃべっているのだから。   「それでもよかった。一時でも私を必要としてくれるなら。そのうち赴任して君を見るようになって、苦しくなった時に出会ったのが深沢さん。……そういうことになっても、まるで傷がないかのように普通に私を抱いたんだ。嬉しかった。彼の背を見た時に……その意味がわかったけれども。君を好きになって、君を見るたびに私は苦しくなって深沢さんを頼った。彼は私を甘やかしてくれたし……。これは依存だ、ダメなんだ、そう思っても止まらなかった。そして君に告白されて……嬉しくて、嬉しくて、……付き合えたらどんなにいいだろうって。でも私は教師だから。我慢したんだよ、これでも。君は一生懸命、私に近付いてくれた。付き合う時に、私は深沢さんに「好きな人がいるので、もう終わりにしたい」と言った。本当にそうするつもりだったんだ。だけど、旅行に行って……君に身体を見られて、息を飲まれたその瞬間……! もう、すべてが終わったような気がした。当たり前のこと。でも付き合ってるんだから、大丈夫。彼はわかってくれる。そう思っても、……身体が、精神が崩れ始めた。……言い訳になるけど、そのたびに、私はまた深沢さんを頼ったよ。本当に、すまない。君を裏切って……」  

ともだちにシェアしよう!