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第76話

「そんなことをしたら、いつか君は私を憎むようになる。叶うはずだった未来を考えて、必ず後悔する。私はそんなことはしてほしくない」 「例え後悔したとしても! 俺は裕貴を失いたくない!」 「お願いだから、私の言うことを聞いてくれ! ……私を失っても、君には必ず残るものがある。わかるか? バスケットだ。君には可能性がある。それを信じて生きていける。どちらも手に入れることは不可能だ! 君には才能がある。頼むからそれを選んでくれ。私といたら君は必ず潰れる。必ずだ。お願いだから……」  跪いて一層激しく泣き出した先生を前に、俺はそれ以上何も掛ける言葉が見つからなくなった。どちらも手に入れることは不可能。そんなふうには思いたくない。だが、人は大事なものをそんなにいくつも手に入れることができるのだろうか? 堂々巡りの思考の果てに、俺は部屋を出た。  暗さも寒さも、家までの遠さも、何も考えられなかった。ただ先生とバスケのことだけが頭の中をぐるぐると巡り、ふらふらと帰途に着く。どうして。一緒に乗り越えようと言ってくれない。俺一人の力じゃどうにもならない。それなのにまだ何もしない前から放棄されてしまっては、俺はいったいどうすればいいのか。 ――付き合うって言ってもアンタが疲れ切って離れていくのを待ってるだけ!  百合さんの声が鈴みたいに、警報みたいに鳴っている。そうは思いたくない。けれど。すべての想いが拮抗して、俺はただ力もなく、家の玄関の階段に座り込んで、明るい星も見えない夜を見つめ続けた。

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