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第77話

「野村先生がねぇ……」  一週間、考えに考えた。だが答えは出ない。学校での先生はますます顔色が悪く、俺は心配していた。メールは無視、電話をしても出てくれない。数学資料室に行ってもなかなかいない。明らかに避けられていた。  土曜の部活の帰り、巧と二人で抜けてファーストフードの店にいた。巧に話を聞いてもらいたかった。巧なら、同い年の男として、どんな答えを出すんだろう?  ずっと考えていた。バスケも先生も両方、手に入れたかった。それはダメなのだろうか? できないことなのだろうか。先生はできない、と決め付けているけれど、俺にはそれが杞憂に思えて仕方がない。俺はどちらも大切にできる。そう自信があった。なのに先生は俺と別れたがる。 「先生と、そんなことがねぇ……」 「……うん」  巧はストローを手で弄びながら考えていたが、不意に顔を上げた。 「でも、そんな大事なことを俺に言っちゃってよかったの? 野村先生は嫌がると思うけど」 「おまえは誰かに言ったりするヤツじゃないから。それに……どうしたらいいかわからないっていうのが本音で」 「うーん。……じゃ、はっきり言うけど、今のおまえには無理だと思う。掛け持ち」 「無理?」 「努力すればできると思うよ。けど、しんどい。すごくしんどくなると思う。お世辞抜きにおまえにはバスケの才能がある。だから二年でも大学から練習や合宿に招待されたり、声が掛かってるんだ。今でも十分、おまえはバスケ界では注目されてる。先生はいつ具合が悪くなるかわからない。その時にどうするの? 遠征にでも行ってたら? 苦しんでるのを放置するしかなくなるだろ? そしたら、その、誰かに頼むしかなくなると思うし。でも、それが嫌なんだろ? それはおまえの気持ちで、先生の気持ちでもあるんだよ」 「裕貴さんの?」  その呼び方に、巧は少し苦笑した。カップを置いて、俺を真っ直ぐに見た。 「おまえのことが好きなのに、他の誰かに抱かれるのは嫌だろ? 今だって嫌だから黙ってたんだし。安心できる相手がいるんだから、おまえの将来や自分の病気を総合して考えれば、大人だったら別れる選択をするよ。……それはおまえが好きで何より大事だから」

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