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第79話

「裕貴さんとこ。最近具合が悪いんだって? 結構呼び出しとか相談とかしてるみたいだけど。何かあったの?」  先生と深沢さんが一緒にいる。俺はみっともなく泣き出しそうになった。往来の中で。具合が悪い、そんなこと聞いてない。どうして。どうして俺に助けを求めない。恋人同士じゃないか。どうしてその人を頼りにするんだ。前髪を強く掴んで、俺は喘いだ。その様子をおかしいと思ったのか、百合さんは声をひそめた。 「どうしたの、遼一。アンタまで具合悪いんじゃないだろうね」 「百合さん……俺……もう、どうしたらいいか……」 「……もう少し待てない? 明日休みでしょ? よければうちにくれば。話くらい聞けるけど」 「うん……」 「客追い出して今から出るから。どこにいるの?」 「××駅……」 「学校のとこだね。わかった。じゃうちのある駅まで来てて。そんなに待たせないから、改札を出たところで」  俺はホームを移動して電車に乗った。こんなに人がたくさんいるのに寒くて、暗くて。俺ってこんなにダメなヤツだっただろうか? 巧に、百合さんに頼るなんて。一人でいつも答えを出してきたじゃないか。何で答えが出てこない?  改札のホームを出たところで母親に電話する。今日は遅くなるから、と。その時からもう俺は先生を裏切っていたのかもしれない。けれど、そんなことを思う余裕もなかった。ただ百合さんに会いたくて、深沢さんを想っても報われず、苦しんでいる、同じような立ち位置の人の側にいたくて。話を、声を聞きたくて。俺は冷たい石の柱に身体を預け、ぼんやりと百合さんを待っていた。

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