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第81話
百合さんに足を蹴られた。痛かったけど、なんとなく笑えて、ほっとする。百合さんが心配そうに俺を見上げた。
「……裕貴さんと、何かあったんだね」
「バスケを選べ、の一点張りで」
俺は事の顛末を百合さんに話した。巧の意見もだ。長い話の間に俺達は深沢さんと百合さんのマンションに着いた。部屋に上がらせてもらい、ソファに座った。百合さんは珍しく酒に手を出さずペリエを置き、俺にはコーラを出してくれた。
「全部聞いたんだ。裕貴さん、勇気が入っただろうね。アンタにその話するの。一番そのことを知られたくなかっただろうから」
「そうですか……」
「アンタはさ、先生のこと、いろんな想像してさ。多分綺麗な人で、綺麗な性格で、綺麗な人生を歩んできたと思ってただろうけど、そうじゃなかった。それを自分の口から伝えるのって厳しいよ」
「多分に俺の妄想が入ってたとは思ってます。けど、その話を聞いても俺の気持ちは変わらなかった」
「意地になってんじゃないの? それとも少しでも幻滅した自分が許せない?」
確かに驚いた。思っていた先生とは全然違った。けれど。今、落ち着いてみて、俺は彼のことをどう思っているのだろう。本当に、俺は彼をどう思っているのだろう。百合さんの鋭い指摘に、俺はゆっくりと答えていった。
「幻滅というか……驚きました。身体の傷を見た時も驚いた。事故は自分をそんなに責めなくてもいいと思った。けど誰かに抱かれると痛くて安心するとか、……本当に好きな俺と寝たらダメになるとか、正直、そこんとこはよくわかりません。俺はバスケを止めたくないし、裕貴さんのことも諦めたくない。巧の言ってることもわかります。けど……何だろう。よくわからないです。……どうしたらいいのか、全然わからない」
「僕が何を言っても変わらないと思うけど」
「はい。けど、どうしてだろう。あなたに会いたいと思ってしまって」
目の前に膝を抱え込んで座っていた百合さんは破顔して、グラスをテーブルに置いた。
「正直だね。ホント。眩しいくらい。裕貴さんが具合悪くなるのもわかるよ」
「先生の具合が悪いのは俺のせいなんですか?」
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