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第83話

「汚れろって、わかります。けど、それって俺が選ぶことじゃない。百合さんは深沢さんが好きなんですよね。俺と寝たって言えば賢史さんが妬いてくれるとでも思ってるんですか?」  思いっきり頬を叩かれた。百合さんは真っ赤な顔をして怒っていた。図星だったからだ。 「……だから! おまえなんか、裕貴さんにドン引きされるんだよ! 最悪!」  アンタ、君、おまえ……何だか百合さんも混乱しているみたいだ。百合さんは俺に背を向け俯いた。その小さな背中がとても淋しそうで、俺は立ち上がった。 「……触るなよ。絶対に」  百合さんの声が怒っている。けれど構わずに俺は彼を背中から抱き締めた。身体が不自然に揺れて、それから彼らしくなく硬くなった。 「……すみません」 「だから……おまえ嫌い……。人の心にズカズカ入っていくんだから……。そうやって裕貴さんのことも落としたんだろ……」 「……ですね」  裕貴さんよりも小さな身体が震えている。強く抱き締めると、百合さんの声まで震えた。 「……やめて……」 「何もしませんよ。……落ち着くまで」 「落ち着けない!」  百合さんが思いも掛けない強い力で俺の腕の中で反転した。その時だった。  遠くでドアの開く音がした。深沢さんが帰ってきたのだ。百合さんを呼んでいる。俺が離れると百合さんはいきなりセーターを脱ぎ捨て、下から一気にシャツを破った。素肌が見えて、俺はびっくりして声も出ない。 「おい、百合」  声が近付いてくる。百合さんが俺の首にしっかりと腕を回した。 「百合さん!」 「キスしないと、裕貴さんのこと、もう助けないよ!」  リビングに続くドアが開けられた。深沢さんの表情が一瞬見えたが、百合さんに思い切り引き寄せられ、俺達はキスをしていた。これじゃまるで俺が強姦しているみたいじゃないか。 「……百合さん!」  引き剥がすと、百合さんは堂々と深沢さんに向かい笑った。泣きそうな顔だった。深沢さんが大きくため息をつく。 「……ベッド、使うのか?」 「……この状況見てわからない?」 「わかった。俺はこっちで寝るから」 「……遼一、行こ」 「ちょっ……百合さん!」

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