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第84話

 百合さんに引っ張られて、俺は寝室へと入っていった。ドアを締めた途端、百合さんがいきなり倒れるように蹲った。 「百合さん、大丈夫ですか?」  泣いている。笑いながら泣いている。握りしめる拳の硬さがその苦しさを物語っていた。 「百合さん……」 「遼一、お願い。側にいて。……嫌でもそうして。……もう僕のプライドがズタズタだよ……」  深沢さんは止めない。きっと百合さんがこうして誰とでも寝ていると思っているのだろう。自分もそうしているから、百合さんにも許している。百合さんの悲痛な片思いはどこまで行くのだろう。愛することを止められない辛さ。俺にはやっと百合さんの気持ちが少しわかるような気がした。 「百合さん」  後ろから抱き締めると百合さんが俺の胸の中に飛び込んできた。真っ暗な部屋の中で俺達はキスをした。すぐ側に深沢さんがいるのに、それでも止められなくてキスをする。そうしなくては崩れ落ちてしまいそうな心を今に繋ぎ止めることができなくなってしまったかのように。  

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