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第85話

「……深沢さん」 「終わったか?」  深沢さんはソファに凭れて、俯いていた。テレビを付けてはいるが観てはいないようだった。 「そんなことできません。俺は帰ります」 「……そうか」  今なら終電ギリギリで間に合いそうだ。俺は急いで放り出していた鞄を手にした。 「送ってくよ」 「それは……」 「いいって。話もあるしな」  深沢さんはテーブルの鍵を手に取ると立ち上がった。寝室まで行くとドアを開けて中を見つめる。その優しい目に俺は疑問を感じていた。もしかして深沢さんも百合さんを好きなのではないか、と。兄弟としてではなく、別の意味で。 「……百合が誘ったんだろ」  地下に降り、車の助手席に乗り込むと、深沢さんが正面を向いたまま俺に尋ねた。何と言えばいい。俺はなんとなく百合さんの気持ちがわかるだけに答えにくかった。家の近くの公園の場所を告げると、深沢さんはカーナビに入力していた。 「あの子と初めて会った時もそうだった。眼帯姿で痛々しいな、と思った。けど冷たい視線も生意気なところも、俺みたいな男に平気で声を掛けてくるところもみんな好みだった。我慢できなくて、何度か抱いた」  深沢さんは眼鏡を掛けながら車を出した。先生と箱根に行った時のことを思い出した。今夜、先生はまた深沢さんと会っていたのだろうか。そんな視線に気付いたのか、深沢さんはハンドルを切りながら「してないよ」と言った。 「裕貴はなるべく俺に頼らないようにしてる。俺も触れないようにしてる」 「そうですか」 「百合を入らせるようにしたりね」 「百合さんは」  俺は乾いた喉を鳴らした。 「苦しんでます。……あなたのことだから、わかっていると思いますけど」 「百合なぁ。アイツ、夜になると俺に乗っかってくるんだよ」  いきなりその話か。百合さんも深沢さんもあっけらかんとしているな。人はその手の話は隠したがると思うけど。 「俺の身体触ったり、俺のを口にしたり、自分のと一緒に扱いたり、あ、オナニーを見せられる時もあるよ」 「……あの」 「欲情してる。俺は」  俺は前を向いて、鞄をぎゅっと握りしめる。 「だけど、どう? 想像してみて。気持ち悪いだろう。兄弟でそんなことをしてるの」

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