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第88話
答えは決まっていたんだ。ただ、それを認められなくて遠回りしていた。誰に相談したとしても俺の本心は決まっていて、参考にはなったけど決定的ではなかった。俺が出す答えを、先生に伝えるだけ。俺達二人の最善の道。先生を苦しめずに済む答え。哀しくても辛くても、今、俺達に選べる道はひとつしかなかった。
「……藤田」
「ごめん、こんな時間に……」
「私はいいけど、ご両親にちゃんと言ってあるの?」
「ここに来るまでに連絡を入れた。さっきまで百合さんといて、深沢さんにここまで送ってきてもらったんだ」
「……そう。とりあえず、中に入って」
先生の後に続いてリビングに向かう。二度目の部屋。相変わらず何もない少し冷たい空間。止まった先生が俺を振り向いた。
「話があって来た」
先生の笑顔が強張る。来る時が来た、そんな感じだった。俺は鞄を置いて、先生の前に立つ。
「……あなたと別れることにしたよ」
「……藤田……」
「でも、勘違いしないで。これは次のステップのためのお別れ」
先生の目に涙が盛り上がる。でも今まで見たことのない優しく、美しい笑顔が浮かんだ。
「この先はわからない。……俺の頑張り次第だから。……俺の勝手で付き合ってもらって、勝手に別れるなんて、……本当に最低だと思うけど……」
先生が俺の胸に飛び込んでくる。思わず抱き締めて、俺は先生の耳元で囁いた。
「ごめん……本当に、ごめん」
「わかってくれて……ありがとう。私こそ……中途半端でごめんなさい」
「病院に、行けそう?」
「わからないけど……藤田が頑張るって言ってくれたから……私も頑張ってみる」
「俺もバスケに専念する。きっと結果出すから。見ていて」
「たまには……連絡してもいい?」
「俺のほうがもっと連絡入れると思うけど」
「授業中は勘弁してくれよ」
「裕貴さん、授業中はスマホ持ってないだろ?」
互いにおかしそうに笑っていたが、先生は涙で頬が濡れていたし、俺はただ頷くことしかできなかった。恋人ではなくなるけれど、いつも心にいる大切な存在。それは恋人以上とも言えるだろう。
「……裕貴さん、お願いがあるんだ」
「……何?」
先生の頬の涙を拭いながら、俺は先生の額に自分の額を押し付けた。
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