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第89話

「……抱かせて。十七の俺に。二十八の裕貴さんを」 「……藤田」 「覚えておきたい。ずっと。忘れたくないんだ、今の事を」  先生は思いの他早く、頷いた。手を引かれて寝室へと誘われる。シャワーを借りようと思ったが、先生は首を振った。 「……そのままの藤田がいい」  寝室は真っ暗で、先生がナイトランプを点けると狭い範囲が少し明るくなる。布団を捲って、先生がベッドの端に座った。入り口のドアを締めて、俺は先生の側に近付いた。彼はカーディガンを床に落とし、俺もジャージとTシャツを脱いで上半身裸になった。先生は眩しそうに俺を見ると、微笑んだ。 「……綺麗な身体だね。……男らしくて」  先生の手がぽんぽんと自分の横を叩いて、ここに座れと言ってる。俺は先生の隣りに座る。緊張する。男性は初めてだが、なぜだかその緊張ではなくて、これが最後になるかもしれないという恐怖。俺は終わりにする気はない。けど、未来のことなんて誰にもわからない。  先生の唇が俺の唇に軽く触れる。それを合図に俺達はベッドに倒れ込んだ。先生の身体は俺の下にすっぽりと収まり、ボタンを外していくと、彼は歯をカタカタと鳴らしていた。先生は俺に肌を晒すことをとても怖がっている。何でもないことのように普通に躊躇なく身体からパジャマを脱がせる。傷は目立つが華奢で白くて、俺は思わずその薄い肌に吸い付いていた。痣を付けるたびに先生の小さなかわいそうな悲鳴が上がる。だがそれに構わず俺は傷も舐めた。 「……遼一……」 「大丈夫。怖くない。俺が触ってるんだから」 「……うん」  先生が身体の力を抜こうと努力しているのがけなげで、俺は何度も先生の泣きボクロにキスをした。大好きな先生に触れている。先生の素肌は皮膚が薄くて少しでも乱暴をしたら血が出てしまうんじゃないかと思うほど肌理が細かかった。だが、いくつも痣を付けることが快感で仕方がない。俺のものだとこの人に見せ付けたい。 「……痛い? 痛くても止めないけど」 「大丈夫……痛くない……」

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