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第91話

 随分と素直に俺に応えられるのは、もうこれが終わりだからか。そう思うと胸が痛む。多分、次があるのなら先生はこんなふうに俺に甘えることはないだろう。なにもかもを放り出せるから、こんな言葉の数々が出てくるのだろう。  先生、俺は本当は別れたくない。先生だって別れたくないと知ってる。でも今の俺達にはこの道しかないことも。俺達に未来があるのなら、今、俺に希望をくれ。まだ俺達は繋がっていけるという道標を。  指を何本入れても、あまり先生は苦しそうではなかった。中が熱くうねって、俺も限界になってきた。 「先生……俺、もう……」 「うん……」  二人でなんとなく訪れた間に躊躇してしまう。先生がゴムを出してきたら素直に着けよう。でも深沢さんとは? その一点だけが行為の途中で何度も頭を過る。彼とはどんなセックスをしているのか。聞き出したい。それよりももっと先生を喜ばせたい。だが先生の苦しみのひとつでもあるのなら、俺にそれを聞くことはできなかった。最後まで先生を苦しめたくはなかった。 「……来て、遼一」 「……いいの?」 「病気とか……大丈夫だから……」 「え?」 「深沢さんとは……その……ちゃんとしてるし……それに……」  そういえば先生は以前、ゆきずりの関係をしたことがあると言っていた。深沢さんは先生を大事にしてくれていそうだけど、しっかりとした口調で言うから、つい尋ねてしまった。 「いや、……どうしたの? いきなり」  先生は腕で両目を隠したまま、小さな声で言った。 「君と……付き合う時、調べたんだ。……それだけ」  ちゃんと考えてくれていたんだ。俺といつかそういうことになるということを。先生は先生なりに、一生懸命に俺のことを考えてくれていたんだ。それなのに。何で別れなくちゃいけない。俺達はこんなに想い合っているのに、何で別れなくちゃいけないんだ。俺は少し泣きたくなった。 「あ、遼一、……っ!」    先生の中はきつくて熱くて絡みついてきて。俺は無我夢中で腰を振っていた。何も考えたくない。今だけは、先生のことだけ感じていたい。  俺はどんなことがあっても、また先生に会いに来る。未来がどうなるかわからないのではなくて、そういう未来にしてみせる。先生にそれを強要することはできないけれど、先生もきっと同じ気持ちだと信じて、俺は頑張ってみる。  高く、すすり泣くような先生の声を聞きながら、俺は彼の肩と頭をしっかりと抑え、何度も何度も覆い被さって先生の熱を味わった。  

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