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第92話

 別れた後。クリスマスの日、俺はどうしても声が聞きたくなって先生に電話した。先生を抱いてから二週間後のことだった。  先生は電話を変えてしまっていた。その後、授業でも付き合う前の自然な笑顔を周囲に振り撒き、穏やかに過ごしているようだった。俺の志望校は、ほぼ決まった。バスケにも更に真剣に打ち込んだ。校内で会っても挨拶をするだけ。数学資料室に行くこともなかった。こうして別れてみるとあっけないものだった。だがそれは表向きで俺はかなり精神的にやられていた。先生のことを思い出しては、夜中ベッドの中で涙を浮かべた。時々、どうしようもなくなり百合さんに会うこともあった。何も言うことはなかった。だが百合さんはいつも微笑んで俺を迎えてくれた。黙って俺の側にいてくれて、それだけで俺は救われた。深沢さんがいない夜は一緒に眠ることもあった。言葉は何の意味も持たず、俺は百合さんのぬくもりを時々求めた。 「言葉はこういう時、何の意味も持たないんだよね」  深沢さんがいない夜、百合さんも哀しくて泣く時があるらしい。今も先生に会っているのかといえば、百合さんにもそのことはわからないようだった。時々、深沢さんは外泊をすることがあり、それは必ず誰かと一緒であることは間違いなく、百合さんは傷ついていた。でも俺が先生と別れた後、彼もまた何か考えるところがあるようだった。俺が別れるという選択をするとは思ってもみなかったらしく、だから俺をこうして黙って受け入れてくれるのだと思う。 三年に上がる頃には少しずつ傷も癒えてきて、俺は進学について考えることが多くなった。先生は二年の受け持ちのままで、同じ校内でも目にすることが格段に減った。だが先生を思わない日は一日もなく、まだ先生が思い出になることもなく、俺はもがきながら毎日を過ごした。  先生はどうしているのだろう。考えたくなくてもそんなことを考える時があった。きっと先生も俺と同じだろう。なぜかそう思った。この苦しさを、辛さを、あの人はどうやって紛らわせているのだろうか。また痛みを求めてさまよっているのだろうか。だが、俺と別れたのだ。前ほど辛くはないはずだ。そう思いたかった。

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