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第100話
白い三階建てのマンションの前で下される。新しくもなく、古くもなく簡素な建物。静かな場所にあった。
「三階の305だ。あの角部屋」
一番右端の部屋。階段を上がっていくようになっている。俺は深沢さんに礼を言った。
「……ありがとうございます。いつもいつも、あなたは裕貴さんを、俺を助けてくれた」
拍子抜けした顔で深沢さんはため息をつく。
「大人になったな」
「そうだといいんですが」
「行ってこい」
「はい」
深沢さんの車が見えなくなるまで俺はそこにいた。先生に会う。恋人のいる先生に。胸が痛む。俺だって女と付き合っていた。責めるつもりはないが、ダメージはハンパない。そして相手が女だからこそ、今、俺は迷っている。
引き返した方がいいのか。先生の平穏な生活を壊していいのか。でもそれならなぜ会いたいと言ってきたのか。俺はただ思い出を懐かしむためにここに来たんじゃない。迎えに来たんだ。それを断られたら、キツい。けれど、それを承知で一度別れたのではなかったか。先生にとって最上の道があるなら、それを歩んでほしかったのではないか。
俺は大きく息を吸った。どんな結果になろうとも、俺は先生にありのままの姿を見せるだけ。階段をゆっくりと上がり、廊下を歩いていく。305。野村、と表札がある。しばらく考え込んでいると、突然ドアが開いた。
「……藤田?」
懐かしい声。少しだけ髪が長くなった。憧れた美しい表情に衰えはない。俺は泣きそうになった。
好きだ。こんなにも好きだ。気持ちに変わりがない。それよりももっと愛しい気持ちが溢れ出てくる。
「……車の音が聞こえて、もしかしたらと思って。なかなか上がってこないから違うのかと思って、……藤田、久しぶりだな。……あまり変わっていない」
「裕貴さんが試合を見にきてくれていたこと、知っていました。ありがとうございます」
「……相変わらず目もいいな。とにかく上がって。疲れてるだろう」
先生の後を追って、中に入る。部屋は変わらずのモノトーンで懐かしい。高校の時に戻ったみたいだ。
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