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第103話

「……待ってくれ! 遼一! 待って!」  先生が走り出してきて、俺の胸の中に飛び込んできた。軽い。なぜ、こんなに軽くなったんだ。いや、俺が成長したのか。あの時よりも。先生の身体が震えていて、俺は抱き締めたかったが、我慢して手を握りしめた。 「……何?」 「東田先生とは付き合ってない。時々は会うけれども……」 「え?」  くぐもった声を聞き取ろうと俺は顔を寄せた。先生は泣いているようだった。 「君が卒業した後……いや、正確には君と別れた後、私は二度倒れたんだ。学校で」 「何だって?」 「眠れなくなって。疲れているのに眠れなくて。食事も時々受け付けなかったり、突然熱が出たり。君と会えないことがこんなにも……こんなにも辛いことだとは思わなかった。東田先生に疑われた。もしかして何か悩みを持っているんじゃないかと……」 「裕貴さん……」 「仕事を続けていきたかった。だから相談した。恋人と別れたと……。今は遠くの病院に通ってる。症状はだいぶよくなった。東田先生に告白されたけど……私は、どうしても君のことが忘れられなくて。深沢さんと会っても話しかしない。もしかして一生懸命頑張れば、身体は無理でも、心は少しでも綺麗になれるかと思って……。辛い時は君の試合を見に行って……。東田先生は今は結婚しているし、私とはいい友人になってくれて……病気の報告で会ったりしてる。ただそれだけ。大人ぶって、君と別れたけれど、……すまない。私は、今でも、君のことが……! 例え、結婚したとしても、私の気持ちは変わらないんだよ。ごめん……」  俺は先生の細い身体を強く抱き締めていた。びっくりした先生が俺を見上げたところで唇を奪う。  深沢さんにやられた。それとも試されたのか。わからないが、結局、俺はこの人が好きで、それはまったく変わることがなくて。  先生は苦しそうに俺の肩に指を這わせたが、押し返すことはなかった。俺は調子に乗ってキスを続ける。 「……裕貴、歯」 「え、あ、ああ……」

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