6 / 16

第6話

進藤くんが辞めてから1ヶ月経ち、俺はすっかり普通の生活に戻った。 とはいえ乳首が敏感になるのは続いていて、その時だけは未だに進藤くんのことを考えながらしてしまうことがあった。 なるべく想像しないようにはしてるんだけど…。 でも進藤くんにされた時のこと考えた方が気持ち良いんだよね。 俺はすっかり変態になっちゃったのかもしれない。 そんなある日、帰り際にバイト先の店長から呼び止められた。 「尾崎くんちょっといい?」 「はい、何ですか?」 シフトの変更かな?と思って何気なく返事をした。 「あのさ、進藤くんの事なんだけど」 何故かその名前を久々に耳にしてギクリとした。 なんだ?まさか更衣室で変なことしてたのバレたとか!? 俺はドキドキしながら聞き返す。 「進藤くんって、辞めた子ですか…?」 「そうそう、あの背の高い男前の。なんか、尾崎くんに連絡したいことがあるって言うんだ。連絡先教えて欲しいんだって」 「え…俺にですか?何でですか?」 「いやー、内容までは聞いてないんだ。もしダメなら断るよ。それか進藤くんの連絡先教えるから、もし大丈夫なら連絡してやってくれない?」 店長は明らかに間に入らされて面倒くさそうだった。 俺はこの件は自分が引き取ることにした。 「あの、じゃあ進藤くんの連絡先教えて下さい。こちらから連絡します」 「あっそう?助かるよ。じゃあコレ…えーっと、ああこれだ。この番号にお願いできる?」 俺は店長の持っているタブレット端末に表示された電話番号をスマホに控えた。 「はい。わかりました。それじゃあお疲れ様です」 俺は帰り道ずっとドキドキしていた。 なんで?なんで今更進藤くんから連絡が来るの?? あの時、明らかに避けられたと思ったのに。 何でわざわざ店長に聞いてまで…?? この番号…どうしよう。電話するの?俺から??なんで? こっちから連絡する義理なんて無い。 無い…けど… 俺はその番号を捨てられない。むしろ…進藤くんの声が聞きたいって思ってるのおかしいよね。 スマホを持つ手が汗ばむ。 番号を表示した状態で、通話のボタンを押そうかどうしようか迷って指が震えている。 待って。電話掛けて一体なんて言うの? いや、用があるのは向こうだし。 そうだよ。「何の用?」これでいいんだ。 深呼吸して通話ボタンを押した。 呼び出し音が鳴る。心臓が飛び出しそうにバクバクしている。 どうしよう、どうしよう、どうしよう… 「何の用?」って聞く。それだけ。 呼び出し音が鳴り続ける。 出ない…! 僕は震える指で通話終了ボタンを押した。 「はぁ、はぁ、はぁ…っ」 出なかった…。そうだよね。知らない番号からだったら取らないかもしれないじゃん。 ああ、緊張して損した…バカみたい。 スマホを放り投げてベッドに倒れ込む。 「ばーか…」 無駄にドキドキしたことが恥ずかしくて、進藤くんにとも自分にとも知れぬ悪態をついた。 しばらく放心状態で転がっていたが、風呂にでも入ろうと立ち上がった。 そのときスマホがけたたましい音と共に震え出した。 「あっ」 画面には、知らない番号が表示されていた。 さっき自分が掛けた番号だ…! 進藤くんが折り返してきたのだ。 僕は慌ててスマホを手にとった。 「もしもし…?」 『もしもし。今着信あったんですが…もしかして尾崎さんですか?』 久しぶりに聞く進藤くんの声だった。 「あ、ああ…うん」 『電話ありがとうございます。電話くるかもってこと店長に聞いてたんですけど、すいませんさっき出られなくて』 「え、いや別に…あの、何の用?」 『尾崎さんの声聞きたくて』 「は?!」 電話口で低く笑う声がした。 『というのは冗談で、お願いがあって連絡しました』 「お願い?俺に?」 『はい。尾崎さんって工学部ですよね』 「まあ一応…でも建築学科だよ?」 『家庭教師やってもらえませんか』 「はぁ?家庭教師!?」 『はい。知らない人に今から頼むの嫌なんです』 知らない人は嫌っていったって、俺がどれくらい教えられるかわかりもしないでいきなり何言ってるんだ? 俺がすげー頭悪い可能性もあるじゃないか。 実際には、去年まで塾講師のアルバイトをやっていたから教えるのはある程度自信があるんだけど。 『ダメですか?』 「え…いや…でもカフェのバイトもあるし…」 『金ならカフェの倍は出します』 「はぁ?!なんでそんな…」 『俺の父親が家庭教師を付けろってうるさいからです。いくらでも言い値で出せます』 「いや怖いって!進藤くんちって金持ちなの?」 『はい、それなりには』 うわー…顔も良くて実家金持ちかよ…うらやま…じゃないや 「でも今からどこ狙ってるの?俺で役に立つかなあ。去年まで塾講師やってたけど、今年入ってからは勉強から離れてるし…」 『え?塾講師やってたんですか?じゃあ決まりですね。給料の打ち合わせとかしたいんでうちに来てください。いつが良いですか?次バイトいつ休み?』 ええっ?なんで勝手に話が進んでるの?!いつって、え?? 「次休みなのは明後日だけど…」 『じゃあ明後日。授業終わるの何時です?』 「待ってよ…えーと…14:30かな」 『それ終わったら来て下さい』 えええええええ…? 俺、行くってまだ一言も言ってない… 「でも…」 『尾崎さん。秘密ばらしても良いんですか?』 「えっ!?」 今更それ引き合いに出すの!? 「わかったよ、行くよ!家どこか教えて」 そして俺は進藤くんの家に行くことになってしまった。

ともだちにシェアしよう!