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3.スラム街の闇医者と落ちてきた片翼の天使③
「……具合、良くなっています」
「おう、そりゃあ良かったな」
あれから意識を飛ばすまで、身体の相性が良かったのだ……ヤりまくって気絶をしたエルメールだったが、次に起きた時、隣の机に腰かけて煙草を吸っているヤクモを見ると自信の額に手を当てて、綺麗に掃除された下半身も見やってから、む、と唇を尖らせて言った。
「人間界の、僕、瘴気に当てられて具合が悪かったのですが」
「まーだ、天使ごっこ続けてんのかよ」
「だから、『ごっこ』じゃありません。僕は本当に、天使なんです……ほらっ」
そこまで言うと、くいっとエルメールが顎を上げて目を瞑る。と、バサっとエルメールの背中から、言った通りの天使の羽根が……片翼だけ、診療室の中に露出された。だからヤクモは思わずぽろっと煙草を落としてしまった。エルメールはそんなヤクモを見て、得意げに『ふふ』と笑う。
「ね? 今は、片翼しかないけれど……これ、本物ですよ」
「てん……し?」
「だからそう言っているでしょう、無礼者が」
今度は鼻を鳴らして得意げに、威張るように胸を張ってエルメールがそう言う。が、次にはヤクモは『クク』と喉を鳴らすから不審げに、エルメールはヤクモに美しい上目を向ける。
「なにを、笑って……?」
「こりゃ、傑作だ。俺みてぇな闇医者の所に、天使とやらが落ちてきたってか」
「な、何がおかしいんです!」
「なぁお前、俺、お前の身体、気に入っちまった。どうせそんな羽根じゃ、天界とやらにすぐには戻れないだろ?」
「ぐっ……」
「だからお前、」
エルメールの耳元に、ヤクモはその前髪が目までかかった顔を近づけて、囁く。
「今日の治療代、お前、身体で払えよ」
「はっ?」
「暫くはここに置いてやる。だから俺の好きな時に、お前、天使さまとやらのウツクシー身体を、俺に捧げろって言ってんだ」
「なっ、何を無礼な……!!」
「お前だってアンアン喘いで喜んでただろ。俺たち、身体の相性ってやつが良いんだよ、この淫乱天使」
「っっ……」
「世間知らずの天使さまのことだ、こんなスラム街で、飛び出してっても人間に売り飛ばされるのがオチだぜ? キモい金持ちのデブ親父に首輪付けられて、犬みたいに食事させられる生活なんか送りたくないだろうが」
「いっ、犬みたいに……!?」
ヤクモの言葉に、散々天界で裁いてきた強欲な人間共に、鎖に繋がれ飼いならされるのをエルメールは本当に想像したらしい。ぶるっと身を震わせて、それから次にはさっきの情事を思い出してはトロンと目を蕩けさせる。確かに、神と、神とするセックスよりも、もっともっと気持ち良かった。それは背徳感から来るものでもあるのだが、今のエルメールには、そんなことまで解からないのだ。『くっ』と悔しげに声をあげ、『解かりました』と言ってエルメールは、ベッドの上から立ち上がる。
「今日から、天界に戻るまでだけの間、あなたにお世話になってやっても良いですよ」
「じゃあお前、エルメールっつうんだろ。今日から『エル』な、」
「なっっ……無礼な!!」
「そんな生意気きいて良いのか? 俺にだってその気になれば、お前を売り飛ばすくらいできるんだぞ」
「ぐぅっっ!!」
「ハハ、冗談だよ。俺は人身売買はしねぇ。とにかくお前、表向きは、今日から俺の助手として働け」
「助手?」
「言っただろ。俺は闇医者だ。毎日色んな客が、この診療所には来るんだよ。お前、見習い看護師ってことにしてやるから」
「カンゴシ???」
「ああ、説明するのめんどくせぇ。いいからお前は、俺の言う通りにしておけば良いんだよ」
「……ふん、仕方が無いですね、ヤクモ。あなたの言う通りに、してあげましょう」
「おう、よろしくな、エル」
と、いうことで、この奇妙な、闇医者と片翼の天使のコンビが、このスラム街に誕生したのであった。
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