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5.スラム街の闇医者と落ちてきた片翼の天使の日常②

 エルメールは、料理が苦手であったのだ。爽やかな笑顔で『さぁ、召し上がれ!』と振舞われた黒焦げの料理たちに子供達はどんよりして、しかし優しいエル兄の作ったご飯を、ヤクモの金で振舞われるご飯を残すわけにはいかない。涙目になりながらもそれらを完食して、弱々しい笑顔で『エル兄、ありがと』と言って診療所から去って行った。巻き煙草を吸いながら、ヤクモは頭をかきむしっていう。 「エル、お前にはもう、料理はさせねえ」 「は? どうしてです???」 「自覚ねーのかよ!? チッ、まあ良い。どうしてもだ。お前はさっきまで着てた俺の服、さっさと洗濯して返しやがれ」 「また洗濯ですか! ヤクモ、天使使いが荒すぎます!!」 「うるせえな。大人しく、人から借りたモンくらい洗って返せや。『神』とやらに教わらなかったのか?」 「神……」  そこまで言った所でエルメールは郷愁に浸ってしまったようだ。神とやらが、寵愛を受けていた神が恋しいのだろう。なぜ、エルメールが片翼であるかは解からないが、ヤクモにも、エルメールの郷愁はその美しく憂いた表情から伝わった。だからヤクモはエルメールの細い背中をゲシッと蹴り飛ばして洗濯をするための屋外に追いやって、椅子に座って再び煙草を一服しては『ふん』と鼻を鳴らした。 「ふん、ふん、ふーん」  ヤクモに蹴られた事で人間界に意識を戻したエルメールが、洗濯を終えてそれらを、隣の塀まで張り巡らされた紐の上に干している時であった。背後から、昼寝を終えて起きてきたヤクモが白衣姿でにゅっとエルメールの背後に立っては、もに、とエルメールのぷりっとした小尻をわしづかんだ。 「ひゃうっっ!!?」 「エル……お前、エプロン姿がなぁんかエロいな」  もに、もに、もに、すりすり。ヤクモはエルメールが洗濯物干しをしているのに、容赦なくいやらしい手つきでエルメールの尻たぶを揉んでは、その双丘の割れ目にズボン越し、指を這わせる。感じやすい、淫乱天使のエルメールだ。すぐに『ひは、』と言ってその腰から力を抜かして、その場に崩れ落ちそうになった、その時であった。 「おうヤクモ。その女、新しいコレか?」 「っっ!!」 「よおセンジュ、良い洗濯日和だナァ?」 「って、洗濯してるのはそっちのコだろうが、」  隣の塀の上の窓からひょいっと、若い男(アッシュグレーの短髪に、眉と口元にピアスを開けている)が顔と片腕を出してきた。ヤクモは構わずエルメールの尻を揉み続けるどころか、『センジュ』と呼んだ彼の幼馴染の目の前で、『てか、女じゃねぇ』『じゃあアレか? お前も遂に目覚めたか』『うるせえな、ほっとけ』だとか雑談をしながら、彼からの死角でするりと、エルメールのズボンの中に後ろから手を入れてきた。ぐち、とすぐさまヤクモはエルメールのアナルを捕らえて、中指を人差し指でズボンの中、そこをくぱぁ、と拡げる。 「っ!! っっ!!?」 「ん、兄ちゃん、顔赤ぇぞ、熱でもあんのか」 「ん……はっ、い、いえ、なんでっっもぉっ!?」  ゴリュ。ヤクモが今度は深く指を突き刺して、エルメールの中の表側の壁、僅かに隆起した前立腺を擦りつけて来たからぶるっとエルメールの声が裏返る。センジュは気付いているのかいないのか、エルメールに話しかけ続ける。 「兄ちゃん、名前は?」 「ぁっ……うんっ?」 「だーかーら、名前。俺はセンジュっつって、ヤクモの腐れ縁だ」 「え、エルメール、とっっ、申しまっ……はぁんっ」  ゴリゴリ、ゴリュ、ズプ、ズプ。ヤクモの指がピストンされて、センジュの、今日会ったばかりの隣人の前だというのに、エルメールは名乗りながらも甘い声をあげる。センジュは、勿論ヤクモがエルメールに悪戯していることに気がついているが、意地悪くしつこく、ケタケタ笑って一人だけ気付いていないエルメールに質問を続ける。エルメールの目の中には、恒例、ハートマークが浮かんでその口元から、羞恥心から来る快楽で、涎が垂れそうになっている。 「どっから来たの? キレーな金髪、ここらじゃみねえぜ、」 「はっ、あ、のっっ……、外の、国、から……ぅあ♡ 行き倒れてっいるところを、ひんっっ!!?」  ズチュン!! ヤクモの、二本だった指が三本に増える。そうともなるとヤクモの性器に犯されて、隣人の前でまるでセックスしているような気分になって、エルメールはもう快楽駄々漏れで、『はぁっっ♡♡』と声をあげ、ウルウルと涙ぐんだ青い目で、ヤクモの鋭いニマついた、前髪に隠れて良く見えない目元を振り返る。 「もっ、やめっっ……ばれちゃいますぅっっ♡ ああんっ」 「はっ、お前、とんだ天然だナァ。おらっ、良いから、イきてぇんだろ? イっちまえ、」  小声でボソボソと交わす会話も、耳の良いセンジュには丸聞こえだが、やはりどこかで天然なエルメールは気付かずに、ぶんぶんと首を振る。ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅ!! 猶もヤクモは激しく指をピストンさせて、前立腺をゴリゴリして、スパートをかけてエルメールを責める。 「よぉ、兄ちゃん。息が荒くなってきたぜ? 風邪ならそこのヤブ医者に、診てもらったらどうだよ」 「はっ、はっ、はぁっ、せん、ジュ、さぁんっ、だめっ、らめぇっ、みちゃ、見ちゃだめれすぅっっ♡」 「何を見ちゃ駄目だって?」  趣味の悪いヤクモの悪友は、類友と言う通り、同じく趣味が悪い。ニヤ付いて、窓枠に肘を突いて顎に手を当てて喘いでいるエルメールをマジマジと眺めて目を合わせ、その状態で名前を呼ばれることに、少しだけ興奮する。それに気がついたヤクモが『チッ』と、自分がしかけた悪戯だというのに舌打ちをして眉を潜め、もう全然隠す気はない。エルメールをピストンしていない方の手で、センジュの方を向いて洗濯物をもって、前屈みになっているエルメールの細い顎を取って振り向かせて、その美しい唇に、深く、深く、口付ける。 「んむぅっっ!!? んっ、んっ、んんんーーーっっ♡♡!!?」  センジュに見られている前で淫らにヤクモとキスをして、ケツ穴をぐちゃぐちゃにピストンされて、エルメールは新調したズボンの中で、そちらも借りているヤクモの下着に、ドピュ、ドプ、と精液を放ったのであった。射精している間にも、全部出るようにとグチュグチュなかを弄られて、精液が全部出て、腰を震わせてヤクモから手を離されてやっと、へたり、とエルメールは土の上の膝を突いて、『ぁ、ああぅ、』と悶絶した名残り声をあげた。全部を見ていたセンジュは『ハッ』と笑って、ヤクモに言う。 「やっぱ目覚めたんじゃねーか、ヤクモ。見せ付けやがるぜお二人さんよ?」 「うるせぇな、ほっとけ。ついでに引っ込め」 「ハッハ、エルメール。まぁた、洗濯物が増えたみたいだなぁ? ヤクモの性欲っつったら化けモン並だから、せいぜいヤり殺されないようにな、」 「っ、は、はー……、ううぅ」  と、言った所でセンジュがやっと、家の中に顔を引っ込めた。やっと解放された。とエルメールが思ったのも束の間。へたり込んでいた土の上からぐいっと、意外に強い力で立ち上がらせられて、バン、とエルメールの白い手は隣の塀に両方を付かされて、挙句の果てには汚れたズボンを、塀に囲まれているとは言え外だというのに膝まで下ろされ濡れまくっているアナルを外気に晒されて『!?』と驚く。と、いうのもエルメールの公開射精プレイに、ヤクモの方も燃えてしまったのだ。ヤクモの股間を凶悪なソレが、ズボンの中から押し上げている。 「エル、ヤるぞ」 「はっっ!!? ぼ、僕、今イったばかり、で……、というか、なに脱がせてっっ?」 「口答えすんな。好きな時に、好きな場所で、お前は俺に抱かれるんだっつうの」 「ひっ……」  確かに人間であるが悪魔的なヤクモの笑みに、初めて見たわけではない凶悪なペニスにエルメールは悲鳴を上げて、その場から逃げようとしたところで両手首を纏めて握りこまれる。 「そう、『約束』しただろ? 天使さんよ、」 「ーーーっっ!!」  ヤクモの悪魔的な笑み、恐ろしいが男っぽくて色っぽい。あんなに愛し合ったのに、今はなぜか顔を思いだせない遠い天上の神を頭の片隅に置きながら、仕方がない。売り飛ばされるよりマシだ。と、自分に言い訳をしながらも、近づいてくるヤクモの鋭い視線を、口付けを、拒みはしないエルメールなのであった。

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