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10.スラム街の闇医者と落ちてきた片翼の天使のお留守番③
午後六時ごろ、エルメールはその目を覚ました。まだ、頭がくらくらする。体がスースーする。そして、その両手首は、
「っっこ、れは!?」
「おう、目が覚めたか兄ちゃん」
下品な低い、男の声に顔を上げると、そこにはエルメールの頭を殴っただろう売人がいた。ここは、診療所だ。奴隷市場に連れてこられたわけではないらしい。そしてみると、ヤクモに買ってもらった衣類がビリビリに破かれ脱がされて、エルメールはその美しい裸体を売人達に晒していた。
「市場にさっさと連れてくってのも手だったんだがよぉ、人に売るより先に、こぉんなにキレーな兄ちゃんだ。勿体ねえから俺等で先に、輪姦そうって話になってよ」
「まわそう? 何を言って……、あっ、子供達はどうしたんです!?」
「ガキ共の心配なんざ、してる暇はねーぞ?」
「ひっ……」
診療ベッドの足に括り付けられた手首、そして床に投げだされた両足が、ぐいっと売人の男によって立たされて、エルメールの桃色のアナルが売人達、三名の男達に丸見えになる。足に、人間なんかに触れられている。ヤクモの事はさておいて、エルメールはぞっとしてその身を捩るも、手首を括り付けられていて足を押さえられていて、身動きが取れない。おまけに気付けば、細い首には皮の首輪をされているではないか。
「こっの……無礼者! いますぐ僕を、離しなさい!! ぃたっっ!?」
「何、上から物を言ってるんだ?」
頬を、パシンと叩かれたのだ。次にはぐち、とヤクモに毎日慣らされているアナルに、ゴムで出来てボコボコした、細い玩具が宛がわれる。
「てめぇはこれから、俺等に犯されるんだよ、ほらっ」
「ひぐっっ!?」
ずちゅっ! 玩具が、エルメールの中に入ってくる。天界にはない代物だ。おまけにヤクモだって、玩具遊びなんかは好まない性質だったから、エルメールにはそれは、初めての感覚であった。淫らにうねるエルメールのナカで、ボコボコと隆起した玩具の凸部分が、ゴリッとエルメールの前立腺を突く。
「かはっ……、」
快感もあるが、それ以上に吐き気がする。このような、汚らわしい、天界で幾度も裁いてきたような人間に、神に愛された身体を良いようにされるだなんて。『うっ』と吐きそうになっては顎を上げられて、今度はぶちゅ、と汚い口元にキスされた。吐き気がする。神、神よ、どうか見ておられるのなら、どうか、神よ。願っても祈っても、売人たちの行為は止まらず、神の手は下されず、そしてヤクモは、まだ帰って来ない。暫くグチュグチュとアナルを玩具で解されて、そうして充分だと察した売人の一人が、毛むくじゃらで汚い勃起した性器を、そのズボンから取り出した。挿れられる、まだ汚い、涎塗れのキスをされながら『ふぅっ……う゛ううぅっっ!!』とものも言えずにいる内に、本当に、本当に、人間界ではヤクモ以外に許していない後ろを、ズプンッッ!! と、勢い良く暴かれた。
「んぅ゛っっ!!?」
「かっ……ふぅっ。兄ちゃん、良いケツしてんじゃねぇか? センセイに、毎晩抱かれてんだろコレ?」
「ん゛っっんんんーーーー!!!」
「ハハっ、やぁらかくって、んでもキツくって、くっ、さいっこーーーう、だ、ぜっと!!」
「ひんっ!!?」
ズル、と一度引き抜かれ、それからパチュン!と一番深く挿入されて、唇から顔を離してもらったまま、喉を仰け反らせる。気持ち悪さと快楽が入り混じって、エルメールは段々正気でいられなくなってくる。ズン、ズン、ズン、と良いように突かれて、弱い胸元の乳首もぎゅううと摘ままれ引っ張られて、生理現象で勃起した桃色の性器ももう一人がごしごしと擦ってくるから、先走りがぴゅる、と宙に飛んだ。それを見て売人が、気をよくしたように声をあげる。
「おらっっ!! 兄ちゃんも感じてんじゃねえかっっ!! 無理矢理縛り上げられて、ケツ穴ほじられて感じるなんざ、とんだ変態男だなぁっっ!!?」
「ひくっ、あ、うああっ!? や、いや、いやですぅっっ♡ 神っ、神ぃ! ヤクモ、たすけっっ……ひぃんっっ!?」
「はぁっ? 『神』だと? 兄ちゃん信仰でもあんのかっよっっ!! この世に神なんざ、いねえっつうの!!」
「やぁあああっっ、イっっ、イくっっ、いっちゃ、汚らわしっっ、ふっ、う゛ううううーーー!!?」
「おらっっ、ナカに出してやるっっ! 孕めこらっっ!!!」
「いやだぁああっっ! ひぐっ、ひくっ!? 人間、人間なんかにっ、たすけてっ、神、神ぃいーーっ、うっ!!?」
ドプン! ドチュ、ドク。ナカに出されてエルメールも、同時に竿を擦られて射精してしまう。イったのだ。おまけに口元に、エルメールの痴態に竿を擦っていた別の売人の精液が、ドピュっと放たれる。青臭い。いいや、臭い。臭くてたまらない。人間に、売人たる汚らわしい人間……ヤクモ以外に犯されて、エルメールの目からは生気が失われており、イった後の気だるい空気にガクッと頭を項垂れている内、次の男が『俺、にばーん!』と、またエルメールの足を持ちあげた時であった。
「エルメールちゃん? いんのか???」
「は、は……かみ、ヤクモ……なぜ、」
「エルメールちゃん???」
どうも騒がしい、ヤクモが留守のはずの診療所の様子に、隣人のセンジュが様子を見に来たのであった。開けっ放しだった扉から、ピアスだらけの青年・センジュが顔を覗かせると、ギクリとした売人達が、上も下も精液まみれのエルメールから一旦離れて、懐からナイフを取り出す。
「なんだ、センジュじゃねーか……」
「っ何、してやがる! てめえら、誰のモンに手ぇ出してるのか、解かってんのか?」
「ハッ。誰のものって、あの闇医者のモノ、って言いてえのかよ、」
「そんなん、ったりめえだろうがぁ!!」
丸腰のセンジュであったが、ナイフを持った売人三人であったが、伊達に腕っ節だけで生きていない。センジュはあっさりと売人どもをボコボコにして診療所から追いやって、『次は殺す!!』と啖呵を切ってはまだぼうっと生気を失っている、エルメールの元へと戻ってきてしゃがみ込んだ。
「……大丈夫? エルメールちゃん、」
「……せん、ジュ、さん?」
「大丈夫、なわけねぇよな……つか、ヤクモのやつ、まだ帰ってねえの?」
優しく手首の拘束を解かれて、売人が落としたナイフで皮の首輪を切って落とされる。そうしてセンジュが着ていた上着をそっとかけられて、ハッと気がついたエルメールが床に手を付いて、ぶるぶるぶる、と震えだした。
「あ、ああああ、神、神よ……なぜ、なぜこのような、ああ、」
「……神? 神、って……エルメールちゃん、」
と、センジュが言ったところで呑気に女を抱いていた、ヤクモが診療所の扉を開けて帰ってきた。
「帰ったぜ、エル。って、センジュ、まぁた用もねーのに来て……って、」
麻袋にいっぱいの医療備品と、紙袋に入ったエルメールのためのスカーフを手にしたまま、ヤクモはその黒い衣装に身を包んだ身体を固める。顔をしかめて、ブルブル震えているエルメール元へと近づいては、診療ベッドの上に荷物を置いて、センジュの隣、裸で精液塗れのエルメールの前に膝を付く。
「あ、ああ、や、ヤクモ、僕、僕はっ……」
帰ってきたヤクモに気がついたエルメールは、涙を浮かべてヤクモにその、細い両手を伸ばしたが、
「この馬鹿野郎っ!!」
パチン、とヤクモに、その頬を殴られては呆然とした。ボロボロボロ、とその美しい瞳から、真珠のような涙を流しては『あ、』と短く掠れた声をあげる。
「ちょ、おいヤクモ!」
「あんだけ、扉ぁ開けんなっつっただろうが!! 大方売人に犯されてるトコにセンジュが来たんだろ。センジュが来なかったらお前、売り飛ばされてたんだぞ!?」
「ヤクモ……ヤクモ、どうして殴るんですか……僕、売人達に犯さ、犯され……うっ、お゛えええーーー!!」
口元の青臭さを思いだしてはエルメールは、センジュとヤクモ、二人の前で思いっきりに胃液を吐いた。その次にやっと、乱暴にヤクモががばっとエルメールを抱きしめてやる。ああ、青くさい。人間臭い。ヤクモ。ヤクモ。こんなにも人間は、あなたの仲間は汚らわしくて、僕は、僕は。思ってエルメールは、今度はヤクモの胸の中で泣きじゃくりだす。
「うっ、ふぇ、ぅあああっ!!!」
「ほんっとうに、エル、お前は世間知らずすぎるぜ、」
「ヤクモ、ヤクモ!! どうしてです!? なぜ、神は僕をこんな場所にっっ、なぜ神は、僕を助けてはくれないのですか!?」
「……チッ」
「神、神ぃ……どうして、どうしてなのです、うぇ、うぅっ……」
センジュが、エルメールの言葉に疑問符を浮かべては抱き合っている二人を困ったように見ているが、ヤクモにだって、そんな、遠い天上の神の思惑など、解かるはずがない。エルメールにわからないものを、ただの人間であるヤクモが、解かるはずもないのだ。ヤクモは泣きじゃくっているエルメールを抱き上げて、センジュを見やる。
「センジュ、巻き込んで悪かったな……いや、サンキュ」
「あ、ああ……別に、俺は良いんだけどな、」
「エル、身体洗ってやる。もう泣き止めよ、シャワー行くぞ」
「うっ、うぅう……ヤクモぉ……、」
汚された天使の身体、ヤクモの診療所のシャワーなんかで洗い流したって綺麗には戻らないこと、ヤクモにだって解かっていた。
***
「ふふん、ふーん」
次の日目覚めると、エルメールは昨日の出来事を綺麗サッパリ忘れていた。今もこうして鼻歌交じり、診療室のホコリ掃除を、ヤクモに買ってきてもらった新しいスカーフでその美しい金髪を一つにまとめて、機嫌良さ気に行っている。
「ヤクモ! このスカーフ、随分具合が良いですよ?」
「ああ……そうかよ、」
そのエルメールを不可解な目で、巻き煙草を吸いながら、椅子に座った白衣姿のヤクモが眺めている。昨晩シャワーでヤクモに身体を清められ、その後死んだように眠りに付いたエルメールは、今朝、本当に何事もなかったようにヤクモを叩き起こしてきたのだ。最初は強がっているのだと思ったが、どうやら本当に、昨日の事は頭からすっぽりと抜けているらしい。エルメールの昨日の記憶は、彼が焦がした料理の事で止まっていて、朝食に、昨日作った焦げ塗れの料理を、ヤクモは『頑張ったんですからね!』と言われて無理矢理食べさせられた。そこまでは普段のエルメールで、それから少しの慰めにでもなれば、と、元々やるつもりだった美しいスカーフを『ほら』とぶっきらぼうに差し出すとエルメールはニンマリして、いつものように金髪を結ってやると、その機嫌は急上昇したものだ。
「子供達、そろそろここに来るんじゃないですか、ヤクモ?」
「そうかもな、」
神とやら。エルメールが、天使がいるのだから本当に存在するのだろう神とやらは、何を考えているのだろうか。ヤクモは思う。なぜ、神はエルメールを助けない? 地上での出来事、神と言うくらいだから見えていてもいいはずだ。なぜ、神は片翼になったエルメールを迎えに来ない? エルメールは、いつまでこんな、ちんけな診療所にその身を寄せているつもりなのだ? そうだ、そもそもエルメールは、やはりどうして、片翼の天使になってしまったのだろうか。ヤクモの疑問はつきないが、呑気で美しい、眩しい笑顔のエルメールに、それを問い詰めるのはとても、残酷な事に思えたのだ。だからヤクモはいつも通り、ホコリ掃除をしているエルメールの尻に気安く蹴りを入れてやる。
「いたっ!?」
「おら、いつまでここの掃除してやがる。次、てめーの大好きな洗濯だ、」
「また洗濯!! まったく、毎日毎日、どうしてそうヤクモは天使使いが荒いんですかね?」
「うるせえ天使だな。その煩い口、俺が塞いでやろうか」
「えっ……、ん、」
今は優しく口付けてやって、こうして平和に、優しい時間がすぎるのを、ただその身に、二人で感じていよう。そう思った。
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