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第3話

あわただしくデスクで仕事をこなす叶音にとって、弁当が無いということはけっこう辛い。 せわしい昼休憩にいちいち外に出るのは面倒だ。 昼を知らせるベルが社内中に鳴り響くと、皆一斉にパソコンを閉じる。 それぞれ思い思いに貴重な休息を取るために、ある意味、仕事中よりテキパキと動いた。 叶音はいつもデスクの上のパソコンを閉じると、まず喫煙所に向かう。 そして一服済ませると、またデスクに戻り今は愛音がこしらえた弁当を、愛妻弁当持参の同僚と一緒に食べる。 愛音が実家に戻る前は母の手作り弁当だったが、今は体調を崩し入院している。 それがここ何日かは、喫煙所から出るとそのままエレベーターに乗り込み、会社の外へ向かっていた。 ベルが鳴り響き、叶音は今日も喫煙所で一服する。自販機でコーヒーを買ってからベンチに腰掛けた。 「ふう~…」 天井に向かって煙を噴いた。弁当を買いに外へ出るのは面倒だと考えては、また下を向いてタバコを吸った。 数人の男性社員がベンチに腰掛け同じようにモクモクとタバコを吸っている。 また一人、ワイシャツとネクタイを緩めながら喫煙所に入って来た。 叶音の隣に腰掛けた彼は、タバコに火を付けると叶音に笑いかけて言った。 「お疲れ」 「…お疲れ様です」 彼もまた叶音と同じ、弁当を作ってもらえていない。 彼は床に向かって煙を噴くと隣の叶音をまた見た。目の下のクマは、彼が今、睡眠不足であることを叶音に知らせた。 「…愛音、元気?」 「………ええ…まあ…」 「そうか、…良かった。」 叶音の返事に、彼は安心したようにまたタバコを口に運んだ。 缶コーヒーを飲みながら、そんな彼の様子を叶音は横目で見る。 彼と目が合う。 「似てるけど、双子と言わなきゃやっぱり分からないなあ」 彼は叶音に愛音をだぶらせるように言う。 「何があったか、兄貴は俺には言わないけど、今朝、目玉焼きをだいぶん焦がしました。」 彼のどうでもよいセリフに少しイラっとした叶音は、先程より強い口調で今朝のことを話した。 「…そう…か…」 反応の薄い彼に、叶音はまたムッとなる。 「千乃さん、愛音に何したんです?」 千乃は叶音に一度視線をやると、すぐにまた反らして、正面のタバコのヤニで少し黄色くなった壁を見て言った。 「少し…安易だったのかもしれない」 仕事好きで、部下からの信頼も厚い千乃は叶音にとっても同じで、社内でもダントツで信頼できる尊敬できる上司だ。 そんな千乃が今、双子の兄である愛音のことで、これまでの自信を全てなくしたかのように情けなく話す…。 「千乃さん。俺にできること何かありません?弁当無いと、俺も辛いんで」 この先の二人がどうなっても、きっと永遠に愛音に一番近い、愛音とは双子であり弟の、叶音にしか出来ない何か。

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