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第5話
豚汁とご飯をよそってお盆に乗せると、愛音もテーブルについた。
叶音のビールはもう空のようで、愛音からそれらを受け取ると今朝と同様、がっついて食べはじめた。
その正面でちびりちびりと箸を口に運ぶ愛音。
「…大丈夫なの?その食い方…、食欲ないとか?」
心配というより、そのボソボソとした愛音の動きに叶音は少しうんざりした。
「…まあ、なんにもしてないしね…疲れるような事~…アハハ」
「…」
「…いい仕事、見つかるといいけどな…。」
「…どうかな…。」
自虐ギャグを振っておきながら、自滅する。
地元を離れ大学に進学した愛音。一方叶音は地元に残り実家から通える今の会社に就職した。
大学を卒業後一度は就職したものの、愛音はたった半年ほどでその会社を辞めてしまっていた。叶音も母も、愛音は順調に頑張っているものだと安心していたのだが。
その後も点々とアルバイトをしてとりあえずの生活は出来ていたようだが、一年前、突然実家に愛音の荷物が届けられ、愛音は実家に戻ってきたのだった。
痩せて、愛音の顔から笑顔は消えていた。
ちょうどその頃、何があったのかと心配する間もなく、愛音が戻り入れ替わりのようにして、母が体調を崩し入院してしまった。
実家に戻ってからの愛音は、叶音とも誰とも顔を合わせることなく自室に引きこもった。
しかし、母親が入院したらとたんに家の中は散らかった。台所の流しにはいくつもの汚れた食器が、洗濯物は溜まりゴミも溜まる。
残業続きの叶音がそこまでできるはずもなく、引きこもりの愛音は否応なしに、母に代わり家事をすることとなったのだ。
そんな生活を毎日繰り返すうち、今までたいしてやってこなかった、炊事、洗濯、掃除といった主婦業を今ではスイスイこなせるまでになったのだった。
最初の頃は色々不慣れで面倒だった愛音も、そのうちそうすることが嫌いではなくなっていった。
叶音や母が喜んでくれることを嬉いと思えていた。
だが、そればかりしていられないだろう?と、そろそろ仕事をした方がいいと、叶音は愛音に対し口煩く言うようになっていった。
大学時代の愛音は、今よりはもう少し社交的だった。もともと叶音より会話は苦手なところはあったが。
大学卒業後、就職先での話を自分の話を、愛音が叶音に話したて聞かせたのは、引きこもりから半年以上経った後だった。
同時に、愛音が同性愛者であることも叶音は知ることとなった。
愛音の闇は自分が想像するより大きいものだと、叶音は初めて知ったのだった。
以来叶音は、仕事を探せと愛音に言うのはやめたのだった…。
「…うまくいってないのか?」
箸を止め、叶音は心配顔で懸念顔で愛音に聞く。
「千乃さんと…」
「ふふ、…うぅん、うまくいってる。」
愛音はうつむいた。
ちびりと箸の先に摘まんだキャベツを小さく開いた口で受け止めて。
少しピンク色になる頬っぺたとは裏腹に、愛音の眉はハの字に下がった。
偶然を装い、千乃と愛音を引き合わせたのは、今も千乃を慕い尊敬する、当時は千乃の部下だった叶音なのだ。
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