叶音が聞いた、大学卒業後から実家に戻って来るまでの愛音の二年間の話は、叶音にはとてもとても、重かった…。 そして高校時代、女の子に告白されてもOKしなかったのはそういう理由だったのかと、叶音の疑問はこの時、予想外の答えで解決したのだった…。 双子だが二卵性の叶音とは顔も背格好もまるで違う愛音。 愛音の方が叶音より細く小さい。 好きな食べ物も、得意な教科も、好きなタイプも、何一つ叶音と愛音が同じになる物はなかった。端から見るとそれは、わざと真逆にしているかのようにも見えた。 明るく友達の多い叶音、友達と呼べる人間は今も変わらず一人だけの愛音。 なんでも一通りこなす叶音と違い、愛音は苦手な物が多かった。 人気者の叶音と人見知りする愛音。 これまでふたりがどちらかと間違えられることなど一度もないほどに、ふたりはまるで違っていた。 皆の輪に自分から入って行くという行動は、大人になった今も変わらず、愛音には難しいことだ。 叶音が先に輪に入ると、叶音は必ず愛音を誘った。そうして自分も入れてもらうというのが、叶音と一緒に過ごしていた頃の愛音の常だった。 そんな双子を、兄と弟として、叶音に愛音を『兄』と呼ばせるようにしたのは母だった。 いつも叶音の後ろで秀でたところが目立たない愛音を、いつか叶音が無下にしないようにと。 母の願い通りに成長した双子は、大人になった今も双子で兄弟として、叶音は愛音をないがしろにしたりはしない、兄思いの優しい弟に育った。 そしてそのことを、愛音もよくわかっている。 先に食べ終わった叶音は、流しに食器を下げ灰皿を持ってまたテーブルに戻った。 カチリという音でタバコに火が付くと、まだ食べている愛音に気遣ってそっぽに煙をはく。 タバコを持つ手を額に当て、叶音はくくっと笑った。 「あの人も寝不足みたいでさ、目の下すごいクマ飼ってたよ」 叶音は笑いながら昼間の千乃の話をはじめた。 「…」 「…」 「…」 しかし愛音は下を向いたまま。笑いもしない。 「だからさあ、俺はー…、あの人が安易で兄貴に対して何かしたり、言ったり、しないと思うんだよ。」 「え…？」 愛音は顔を上げて、はじめて千乃の話に反応した。 「えっ、ゆゆ、ゆっくんから…な…何か聞いた…の…？」 ハッとした顔を見せたかと思うと、右手で口を塞ぎ左手はこめかみを掴んだ。愛音の頬っぺたはみるみるピンク色に染まっていく。 そしてその両手で今度は顔を覆いさっきよりさらに低く頭を下げた。 愛音の柔い栗色の髪が、しょうが焼きのタレに浸かりそうなほど…。 髪の間から見える両耳まで、濃くピンク色に変わった。 叶音はその様子にひく…。 どういう反応なのか、全く理解出来ない叶音。 タバコを吸い込み、ため息と一緒にもう一度そっぽに煙を吐くと叶音は続けて話出した。 「いや、何も聞いて無いけど…でも、後悔はしてるふうだったよ。」 「後悔っ…！？」 言葉と同時に勢いよく顔を上げた愛音は、たった今ピンク色に染めた顔色を、今度は一気に真っ青にして強張らせた。