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欲しがりな彼 6

東城の顔から女性向けの笑顔が消え、口を真横に引き結んだとげとげした目が戻っていた。 東城はフロントで鍵をうけとり、広瀬と一緒にエレベータであがった。 「あいつと何の話をしたんだよ」と東城が広瀬にいってきた。いらだちを隠さない声だった。 東城に先導されて入ったのはいつもより広い部屋だった。 「一方的に話されただけです」と広瀬は答える。 「じゃあ、なんで名前知ってるんだよ」 「会員登録するからって書類渡されて」 「あいつの目の前で書いたのかよ。なにやってるんだよ。個人情報丸分かりじゃないか」 広瀬はだまった。じっと東城を見ていると彼は詰問口調を閉じ、一回深呼吸をしていた。 「悪い。お前にあたることないよな。でも、前も言ったけど、あいつのことホントに嫌いなんだ。あの野郎、お前のことなれなれしく名前で呼びやがって」 東城は、手に持っていた鞄と包みを部屋の荷物の置き台に乗せた。そして、ネクタイをゆるめている。 「腹減ってるだろ。メシにする?」と東城が聞いてくる。「何食べる?」彼は広瀬にルームサービスのメニューを手渡してくる。ここの食事はかなり美味しい。 メニューを見ていると、テーブルの上になにげなく置いた自分のスマホが鳴った。知らない番号からだった。東城は怪訝そうな顔をしている。 「はい」と広瀬は電話をとった。 「彰也?」と声がした。妙に明るい、隆平の声だった。それは東城にも聞こえたようだった。「この番号であってるよね?」 「はい」広瀬は答えた。 東城は広瀬の横に立っている。 「そこに弘一郎いる?替わってもらっていいかな。使っちゃって悪いね。僕、弘一郎の番号知らないんだ」 広瀬は東城にスマホを渡した。 「ああ、邪魔してごめんね、弘一郎。後で部屋にワインとチョコレートを届けさせるから。彰也の誕生日にと思って、僕たちで今、選んだんだ。楽しんでね。じゃあ」 東城が何か言う前に電話は切れた。 広瀬が返してもらおうと手をだすが、東城はスマホを握り締めたままだ。「なんで、あいつが番号知ってるんだよ」と彼は聞いてきた。そして広瀬が答える前に自分で理解している。「ああ、会員登録の書類だな。あれに書いたのか」 「それ、返してください」と広瀬は言った。 東城は返そうとしない。彼はスマホの画面を見ている。「お前、番号かえろよ」と言われた。 「は?」と広瀬は聞き返す。 「これ、番号かえろ。じゃないと、また、あいつから電話があるだろ」 「何言ってるんですか。嫌ですよ」 「なんで?」 「だって、そんな。特に害もないのに、電話がかかってくるかもしれないという理由だけで俺が番号変えなきゃいけないんですか」 「言っただろ。あいつは、何でも欲しがるんだ。お前のことだって」 広瀬はあきれた。そんなことあるわけないじゃないか。 「番号は変えません。これ、高齢な祖父母も登録してて、こんなことでいちいち変えてたら連絡とれなくなります」 手を差し出したが東城はスマホを返さない。 「お前の親戚には登録の番号変えてもらえばいいだろ。今回だけだし、新しい番号の登録方法くらい教えてやればいいじゃないか。とにかく、変えろ」 命令口調だ。カチンときた。 「東城さん、子供の頃のケンカを、持ち込まないでください」東城のいうことを聞かなければならない理由はないはずだ。

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