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欲しがりな彼 7

「子供の頃?」と東城は言った。「ああ、そうだった。その後の話してなかったな。2年位前に、俺が仕事でちょっとごちゃごちゃしてたときがあったんだ。そのとき、あいつ、俺の女に手を出してきたんだ」 大人になってからはほとんど付き合いがなかった隆平が、海外から帰ってきて、東城の近くに現れたらしい。どこかのパーティで東城の彼女と会って知り合いになり、二人で連絡をとりあったのだ。 東城はその時本庁でボスが左遷されチームが解体するというトラブルの真っ只中だった。忙しく彼女との連絡も滞りがちだった。彼女の不安につけこんだのか、なんなのかはわからない。気がついたときには隆平が彼女を手にいれていた。 東城への別れ話は彼女からだった。泣きながらごめんねと言われたらしい。こんなつもりじゃなかたんだけど、と言っていた。 「しかも、あいつ、その後、1ヶ月で、彼女を捨てたんだ。別な女作って。そういう奴なんだ」 なんだ、それ、と思う。 東城は女を取られたから怒ってたのだ。犬の話なんかじゃない。女を取られるなんてずいぶんと間抜けな話だ。プライドの高い東城のことだから怒らないはずはない。自分の女を寝取った隆平のことが気に食わないから、あからさまに冷たい態度をとるというのもうなずける。こどもっぽいとは思うが好きにやってくれ、だ。 広瀬のスマホの電話番号とは全く違う話ではないか。 「俺には関係ない話ですね」と広瀬は答えた。「返してください。俺は、隆平さんとは連絡取りあう気全くないです」 「お前にその気はなくても、あいつは違う。さっきだってこれみよがしに電話なんかしてきやがって。あいつは、人が持ってるものを欲しがって、あらゆる手を使って自分のものにするんだ」と東城は言う。「前も言ったかもしれないけど、俺、独占欲強いんだ。俺のものは、誰にもわたしたくない。特に、あいつだけには、絶対に」 広瀬は、東城に手を伸ばしスマホをひったくろうとした。少しもみあいになるが、広瀬はスマホをとりかえした。 「俺も前に言いましたけど、俺は東城さんのものじゃないですよ。番号はかえません。隆平さんには連絡しませんが、それは今俺に連絡する気がないからです。東城さんがなんと言おうと、連絡したい人には連絡します」と広瀬は返した。「だいたい、俺を子犬か彼女みたいに、とった取られたとかいわないでください。俺は俺で、東城さんのものなんかじゃないんですから。独占欲とやらを発揮したいのならよそでやってください」 東城の表情が変わったのに広瀬は気づかなかった。 広瀬はスマホに伸ばされた東城の手を跳ね除けようとして、逆に手首をとられた。ぐっと東城に引き寄せられそうになり足を踏ん張って避ける。 「俺のものを俺のものっていって何が悪いんだ」と東城が言った。 「はあ?だから違うって言ってるでしょう」 広瀬は東城の手をふりほどこうとした。ほんとうに頭にくる。偉そうな態度にも命令口調にも。「放して下さい。不愉快だから帰ります」 「お前、こういうときだけギャアギャア反論してくるな。うるさいんだよ」と東城は言い、広瀬の口を自分の口で強引にふさいできた。 キスというよりも、本当に口封じに近かった。 東城は目をあけていて、自分をじっとみている。舌が口の中を乱暴に動き回り、むさぼられるようだ。舌が喉の奥まではいってこようとして、広瀬はむせそうになる。身体を押しのけようとするが、できない。 思わず、東城の舌を強く噛んだ。 「っつ!」 反射的に東城が口をはなした。右手で、口をぬぐった。唾液に血がまじっているのを見る。広瀬の右手首は左手で強く握ったままだ。そのまま腕を背中にねじあげられた。 「お前、いつもそうだけど、なんで自分が不利なときに、こういう後先考えないことするんだ?だから、馬鹿だっていうんだよ」東城は低い声で言う。 ぎりぎりと右手首をもちあげられる。肩がはずれるかもしれない。かなり痛いが、広瀬は東城をにらんだ。悲鳴なんかあげたら思う壺だ。どこかを蹴り上げて、この手から逃れる隙を作ろう、そう思った。 だが、そんな隙はみじんもなかった。東城はそのまま広瀬をひきずるように寝室に連れて行くと、ベッドにほとんど投げられるように仰向けにされた。起き上がろうとすると再び手をとられる。今度は両手をあっさり左手でつかみあげられた。バタバタと足を動かして抵抗しようとするが、身体をのりあげられる。 東城は、右手で自分のベルトをひきぬいた。そして、広瀬の両腕を上にあげさせ、手首の近くに巻きつけると、口もつかってしめあげてきた。あっというまだった。両腕を拘束され、ベッドに再度倒された。どう縛ったのかはよくわからないが、少しでも動かすとバックルの爪の部分が手首にくいこんでくる。 「やめっ」と思わず広瀬は声をあげる。こんなふうに、自由を奪われるのははじめてだった。

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