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欲しがりな彼 11
目をとじたが、眠ることができなくなった。
東城も起きているのが気配でわかる。彼の手がそっと広瀬の肩に頭に髪にふれた。
広瀬はよけなかった。東城は身体を近づけてくる。広瀬を後ろから抱きしめてきた。そんな身勝手な行為さえも、振りほどかなかった。
広瀬は、自分の前で組まれた彼の手をなでた。
さっきまであんなにひどいことをしていた手なのに、触るとぬくもりが移ってきて安心する。なんだこれ、と別な自分があきれている。
前までの広瀬だったら、こんなことをされたら、裸だろうとなんだろうと、さっさとホテルを出て行っただろう。こんなふうにのこのことベッドに戻り、横になったりはしなかった。
ホテルを出る前には、相手がねをあげるまで攻撃したはずだ。いや、今だって、相手が東城以外にならそうしただろう。
でも、今、自分がしているのは、彼の隣で、身体をあわせて、眠ろうとさえしていることだ。全く自分でも自分が信じられない。
理由は、広瀬にもよくわかっている。彼のことが好きだからだ。こんな自分勝手でわがままな独占欲の強い男。
悪口ならいくらでもいえるこの男のことを、自分は好きなのだ。東城は広瀬のことを馬鹿だといっていたが、それは本当だろう。こんな奴のことが好きなのだから。
なんで好きになったのかはわからない。いつからかも、東城のどこが好きなのかも。
広瀬はもともと友人が少ないほうだが、そんな友人たちのなかでも、東城のような俺様タイプは、一度としていなかった。
むしろ、学校でも職場でも、彼のような俺様タイプには嫌われるほうだ。無視されるか、いらいらされて嫌がらせされるかだったから、広瀬も彼らを避けていた。こういうタイプには近づかないほうがいい、というはが経験上知っていることだった。
なのに、東城にあんなふうに真摯にせまられて、身体を許してしまったのだ。さらに、心までも許してしまった。彼のしぐさが、話す声が、表情が、なにもかも全てが広瀬をとらえて放さなくなってしまったのだ。
それに、東城の執着が、独占欲が、広瀬に優越感を抱かせる。
隆平がいっていたように東城は王様だ。その王様が自分にこれほどまでに執着し、愛しているのだ。王様に選ばれたという満足が、さらに広瀬の感情を東城にむかわせ、何をされても許してしまうのだ。
馬鹿みたいだ、と広瀬は自分に言った。
こんな感情は、ほんとうに馬鹿みたいだ。そして、危険だ。いつか、自分を滅ぼすだろう。
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