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欲しがりな彼 12

目覚ましがなった。 広瀬が目を覚ますと、東城はベッドにはいなかった。 もう起きなければならない時間だ。結局、何時間寝たのだろうか。身体がだるくて重い。でも、広瀬は今日は仕事だった。あんなことになるなら、泊ったりなんかしなかった。 身体を起こした。おなかがペコペコだ。そういえば、夕食もとらなかった。本当に最低な夜だ。さっさとここから出て行こう。 東城が部屋に入ってきた。シャワーでも浴びたのだろう、さっぱりした顔だ。部屋着をきている。 「起きたか?」と話しかけてきた。夕べとは違う、明るい声だ。 なんだかずるい、と広瀬は思った。もう、気分を切り替えてしまっているのだ。それに、東城は今日休みだとか何とか言っていた。それも腹が立つ。 東城は、ベッドの端に座り、広瀬を覗き込む。 「朝ごはん食べるか?何が食べたい?」ルームサービスを頼むつもりなのだろう。 広瀬は答える。「俺は東城さんの所有物なんだから、東城さんが何でも決めたらいいじゃないですか」かなりむっとした声がでた。これくらい言ってやらなくては。 東城は、ちょっと黙ったが、笑顔をうかべて広瀬の髪をくしゃっとなでた。「わかったわかった。ご機嫌悪いんだな。そりゃそうだ」少しは自覚があるようだ。 彼は、広瀬の額から頭をなでてくる。その手の動きが気持ちいいのは、機嫌を悪くしている広瀬には都合がわるい。 「夕べもいったけど、俺はあやまらないから」と東城はいった。その声だけは、真剣だった。「悪いと思わないから」そして、声の調子を変えた。「ちょっと待ってろ」 そして、寝室をでていった。適当に朝食を頼むつもりなのだろう。 ルームサービスがくるまでの間、東城はベッドサイドに戻ってきて、広瀬になんだかんだと話しかけてきた。ご機嫌をとっているつもりなのだろう。広瀬は、返事をしなかった。飽きもせず話しかけながら、東城は、広瀬の唇に自分の唇を重ねてきた。 昨日噛んだ舌には、傷があるだろう、と広瀬は思った。かなり強く噛んだから。また噛まれるかもとは思わないのだろうか。東城は平気な様子だ。 そして、キスをされながら、広瀬は目をとじた。 昨日あれほど感じた身体だ。今日のこのキスで、とろけないはずがない。唇をはなされると、熱い吐息がもれた。目をあけてみても、周りはぼうっとしかうつらない。身体はこのままもう一回キスされたら、ぐずぐずにとけてしまいそうだった。 東城は、広瀬の頭をなでた。「お前、かわいいな」と彼は言った。 ドアのベルがなって、ルームサービスがきたようだった。だが、東城はかまわずベッドに乗り上げてきた。 「東城さん、ルームサービスが」と広瀬は言った。 「大丈夫、むこうでセットしてってくれるから」と東城は答え、広瀬の耳の後ろをなめた。 確かに、しばらくすると隣の部屋でカチャカチャという音が聞こえてくる。隣に続くドアがうっすらと開いていた。 東城は、広瀬の胸に顔をつけて粒の先をすってくる。甘噛したり、なめたり、指でつままれると、声があがる。 広瀬は東城を押しのけようとした。「声、きこえ」と東城に訴える。 「だから、ここは大丈夫だから」と東城はいった。「なんにも見なかった、聞かなかったことになってる」 「でも」広瀬は答える。「んっ」 やっとのことで、東城の頭を押しのけた。 「東城さん、俺は今日仕事なんです。一回家に帰って着替えないと」 「休めよ」と東城が気楽に言う。「お前もたまにはさぼったら?高田さんが安心するぞ」 「なんてことを」と広瀬は言い、両手で東城を自分の前からどかした。 立ち上がり着替えようとして目に入った。広瀬の引きちぎられてボロボロになったワイシャツが床に落ちていて、昨夜の惨状を物語っていた。 「俺のシャツ」 そこで我に返った。猛然と腹が立ってくる。なにをやっているんだ自分は。こんなところで、こんな奴にいいようにされている場合じゃない。 スーツだって無理やり脱がされ、放り出されてくしゃくしゃだ。どこか破れているかもしれない。数少ない大事なスーツがだいなしだ。おまけに家に帰ろうにも着ていくものがないのだ。 本当に腹が立つ。怒りで震えそうだ。 広瀬は、東城の胸をこぶしで押した。 「シャツ、こんなにして、どうするつもりですか?」 「それは、ごめんな」と東城があやまる。「服は用意させたから」 「はぁ!?」 「朝ごはん食べてたらもってきてくれる」と東城は言った。「とにかく、食べろよ。腹減ってるとお前機嫌悪いから」 そういうことじゃないんだ、と思ったが、おなかがすいているのは確かなので、広瀬はバスローブをきて、隣の部屋にむかった。 ガツガツ食事をしていると、ホテルの人がスーツとシャツをもってきてくれた。サイズも丁度いいくらいだった。なんですか、これ?と聞くと、東城がホテルのサービスと答えた。そんな サービス聞いたことがなかった。費用のことを聞くと答えをはぐらかされた。 おなかはいっぱいになったものの、釈然とせず、腹を立てたまま、広瀬はホテルが用意した衣類を身につけて東城を残しホテルを後にした。 その後数日は頭にきて東城の連絡を全て無視した。もともと職場でも会話は少ないので、無視もしやすい。広瀬のアパートにずうずうしく来ても無視していたら、とうとうねを上げてきちんとあやまってきた。 力に任せて乱暴なことをしたことを謝罪させ、広瀬を所有物のように言うことも撤回させた。 謝りかたは軽いのりでどこまで広瀬の怒りを理解しているのか疑問だったが、とにかく東城は謝ったのだった。

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