大井戸署でも広瀬はもめごとをおこしていた。主には部署の先輩の東城とだった。 東城は、嫌がらせをするタイプではないので、なぜ、広瀬にからむのか宮田にはわからなかった。よく広瀬にいらいらして喧嘩になっていたのだ。いや、喧嘩というよりも東城が一方的に怒っていることが多かった。 広瀬と話したり行動したりすることが増えると、彼が反骨心のあるヒーローなどではないということが宮田にもわかってくる。広瀬の行動は、深く考えていないためのものだったのだ。本人は考えているつもりなのだろうが、そのレベルが低い。危機感が薄いのだろう。危ないとかやばいとかそういうものに対して意識が向かないだけなのだ。 それでも、というかだからこそ、宮田は広瀬のことが好きになった。 彼は、普通の人間だった。感情のない美しいサイボーグではなかったのだ。コミュニケーションが苦手で前後のことを考えない無鉄砲な、周りからすると困った人間だったのだ。 さらに慣れてくると宮田は自分が広瀬の友人だと思うようになる。広瀬は、宮田の言葉は無視しなくなった。答えたくないことには平気で無視するが、軽口や冗談といったことにも、それなりに反応をみせるようになった。広瀬から、仕事の話を宮田にしてくることもあった。自分は広瀬の数少ない親しい友人なのだ、と宮田は思った。 広瀬は、無鉄砲すぎて、時々、宮田は「いつかまずいことになるよ」と広瀬に言った。 広瀬は行動した後でその危機感のなさから傷つくことになることが宮田にはわかっていた。そして、鈍い広瀬は、自分が傷ついているということにさえ気づくのに時間がかかるのだ。一緒に仕事をするなかで、何度もまずいことになっている広瀬を宮田は知っている。できることなら、友人として、まずいことに入り込む前にとめてやりたかった。 だが、予想もしなかったまずいことが起こっていることを宮田が知ったときには、もう遅すぎたのだ。