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知っていた男 5

2年ほど前、東城が大井戸署に異動してきたとき、詮索好きを自認している宮田はせっせと彼に関する情報収集をした。 東城は見栄えのいい男で、異動の初日からてきぱきと仕事をこなしていた。 年齢が近く、飲みにいったりするとノリがよく、同じ部署でも他所の部署でも誰とでもすぐに仲良くなった。 かなり若いうちから本庁にいて、上司のトラブルに巻き込まれ異動になったという話を聞いた。これは複数の情報源が言っていたから、おおよそ本当なのだろう。 もう一つ東城に関してよく聞いたのが私生活のことだった。女性関係が派手で、いつか女で失敗するといわれていたのだ。 宮田が知っている範囲でも数人の女性と付き合っていた。全員が美人で建築士や弁護士といった頭がよさそうな専門職ばかりだった。東城の実家は大手の病院チェーンの経営者だからその関係のパーティで知り合うのだという。まれに合コンに行くこともあった。宮田も一度東城に誘われて合コンにいったことがあった。そこには東城の好みの子はいなかったようなのだが、彼は終始感じがよく女の子たちにサービスしていた。 なんで美人を彼女にできるんですか、と聞いたことがある。すると、東城は、付き合いたいと思った女の子がいたら、相手がして欲しそうなことはなんでもする、と言っていた。金も時間もその他なんでも持ってるものは全部使うとも。 だから、熱心にくどいた女性と付き合いだして数ヶ月もすると別れてしまうことが意外だった。別れると本人はふられたといってしばらく不機嫌だったが、すぐに違う女性とつきあって同じことを繰り返している。最近になって、もしかして、この人の方が飽きているんじゃないかと思いついたのだ。本人にどこまで自覚があるのかはわからないが、彼は、恋人といった濃い人間関係を長続きできない性格なのだろう、そう思っていた。 その飽きっぽい東城が、広瀬の部屋にいたのだ。女性と付き合っているとばかり思っていたのに。なんで、広瀬と、と宮田は思った。バイセクシャルだったんだろうか、それもありそうだけど、と思う。 それに、少なくとも、広瀬は東城の好みの美人だ。専門職といえばいえないことはない。仕事熱心で、頭は悪くはない。前後のことを考えない点ではバカだけど。 いろいろと思い出す。 以前、夜遅くに駅前で二人が歩いているのを見たことがある。珍しく食事を一緒にしたのだろうかと思った。東城がなにか熱心に広瀬に話しかけていた。時々顔を覗き込んで、広瀬の反応を見ているようだった。広瀬はいつもの無表情だった。 そして、早朝に二人で勝手に捜査をしていたと高田があきれていたことがあった。あんな時間に何をしていたんだ、と自分も東城をからかった覚えがある。東城がものすごく嫌そうな顔をしていた。あのときも、二人の様子が何か変だと思っていたのだ。隠し事をしているような風情だった。でも、宮田はそのときは深くは考えなかった。東城が、同僚の男と付き合うなんて発想はあるわけがなかった。 だけど、今日、あのアパートで広瀬を抱きしめていた東城を見ると、納得がいく思いがした。 彼は、どうやったのかはわからないが、広瀬を手に入れたのだ。いつもどおりに欲しいものを手にいれたのだろう。そして、この後のことは容易に想像できた。時間がたつと、本人も自覚なく飽きて、相手を傷つけることになるのだ。 そもそも、広瀬は、何を考えているのだ、と宮田は思う。以前宮田が質問したときには男とは付き合わないって断言していたではないか。あの言葉に嘘はなかった。なのになんだってこんなことになっているんだ。 それに、遊び人の東城と付き合ったりしたらまずいということくらい、いくら広瀬でもわかりそうなものだ。 警戒心がなさすぎる。自分は違うと思っているのだろうか。それとも、いつもどおり、何も考えていないだけなのだろうか。 まずいということが彼にはわからないのだろうか。彼が傷つくことだけは、宮田は防ぎたかった。でも、どうやって、と宮田は思う。 広瀬に、あんな奴はやめろと急に言うこともできにくかった。 広瀬が東城と付き合っていることを宮田が知っているとわかったら、広瀬は宮田と友人ではいなくなるような気がした。

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