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晴れの夜、雨の夜 5
気がついたときには、全身こわばっていた。床で倒れていたせいだ。
洗面のはじを支えに立ち上がった。
涙が乾き目の周りがカサカサになっているのをぬぐいながら、もう一度鏡で首をみると、もう血はとまっていた。だが、歯型は青黒いあざになっていた。これは、シャツで隠せるだろうか、と意外と冷静に広瀬は考えた。大きな絆創膏が必要になるかもしれない。
両手首をみると、東城が押さえつけた手のあとがついていた。右手には、くっきりと、東城の大きな時計の金属のバンドのあともついている。
早く冷やせばもう少しましになっていたかもしれないが、気を失っていたので、これも、あざになっている。
広瀬は、ゆっくり身体を伸ばした。とにかく、横になろうと思った。あざのことは明日考えよう。
ベッドに向かう途中、時計を見た。
倒れていたのは十数分のようだ。そして、リビングの机の上には、飲みかけのビールの缶と、東城がもっていた合鍵がおいてあった。彼はそれを置いていったのだ。
広瀬はベッドに横たわった。疲れて眠りたかったが、どうしても眠れなかった。一日を振り返ってしまう。何度も何度も、どこかで引き返せたのではないかと。
君塚の車に乗らなければ、彼をアパートにあげなければ、東城がきたときに、すぐに君塚を帰らせていたら、もっと、きちんと東城に説明をしていたら。
でも、全ては遅かった。それに、これは東城のせいだ。彼が急にやってきて、広瀬が話をするのを待たなかった。そもそも、長い間全く顔をみせなかった。やっと会えたのに、なんで。
広瀬は身体を丸め、布団をかぶった。こういうふうに考えが巡るのは仕方がないのだと自分にいった。眠れなくてもいいのだ、と。
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