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晴れの夜、雨の夜 10

広瀬は、会費を払うと、席をはずした。みんなが帰るまでどこかで時間をつぶすことにする。 焼酎をかなり飲まされたので、電車で帰るにしても休憩したかった。それに、東城が彼女たちとどこかに行くのを、みたくはなかった。 お店の人に水をもらい、奥で飲んで、少し酔いがさめたので、帰ることにした。大騒ぎしていたみんなは、とっくにカラオケに行ってしまっていた。 広瀬のスマホにメールがきている。誰にアドレスをきいたのかしらないが、佳代ちゃんが、「大丈夫?」とメールしてきていた。 明るくて、社交的で楽しい子だ、と思った。東城に似ている。宴会やコミュニケーションが苦手で、どうしてもなじめない広瀬からしたら、うらやましかった。東城は、よく、宴会に広瀬を誘っていたが、自分はほぼつきあわなかったのを思い出した。 しばらくして酔いも落ち着いたので、帰ることにした。 店の中では全く気づかなかったが、外はどしゃぶりだった。広瀬は、傘をもっていない。このまま走って地下鉄までどれくらいだろう、と頭の中で算段をつけてみる。 「広瀬」声がした。 見ると、東城が出口のところで立っている。まさか、と広瀬は思う。まだ、いたなんて。辺りを見回すが、東城しかいなさそうだ。 「カラオケ、行かなかったんですか?」 「ああ」 東城は傘をみせた。「送る」と言う。 「でも」 「この前は、すまなかった」と東城は言って頭を下げてきた。 広瀬はこたえられない。 「ほんとうに、悪かった。ここで土下座しろって言われたらそうするから、送らせてくれないか」 そういわれて、断ることは広瀬にはできなかった。東城は、広瀬を傘に入れ、歩道に出ると、タクシーをつかまえた。 東城は、タクシーに、広瀬の家付近の道のりを伝えた。 雨が、窓あたっている。雨粒は見えず、ほとんど、水をバシャバシャとかけられているくらいの豪雨になっている。広瀬は、東城の方をみることができず、じっと、窓から外をみた。街並みは雨でほぼみえない。 「あの後、君塚が連絡してきた」と急に東城がポツンと言った。 広瀬は、東城のほうを見る。東城はフロントガラスの向こうをみていた。「あの日のこと、説明したいっていって」 「話したんですか?」 「ああ」 「じゃあ」なんで、と広瀬はいいそうになった。なんで、あの後何も言ってこなかったのだ。 どうして、今日になるまで、詫びのひとつもいれず、知らん顔をしていたのだ。東城をなじる言葉があふれそうになる。 「運転手さん、申し訳ないが、その先を右に、行き先を変更してください」と東城は急に言った。そして、広瀬の家とは方向が異なる、この近くの高級ホテルの名前を告げた。 広瀬は、その勝手にかっとなる。「俺は行きませんよ。家に送るって言ったからきたのに」 東城は、広瀬の方をみない。「わかってる。バーで少し飲んだら、送るから」と早口で言った。 運転手は、バックミラー越しにちらっとこちらをみる。「どうしますか?」と確認してくる。 東城は、再度、ホテルの名前を言った。広瀬は、反論しなかった。東城は好きにするのだ。いつも、強引に。 そして、家に帰るといいきらないことで、広瀬は既に東城を許してしまっているのだ。

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