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第19話

2ー7 奇妙な客 『なんだ、主は、オメガになりたいのか?』 ふと声の方を振り返ると剣が宙に浮いていた。 俺は、驚いて周囲を見回した。 幸いにも、回りには誰もいなかった。 「イェイガー?」 俺は、恐る恐る訊ねた。イェイガーは、なおも俺にきいた。 『答えよ。主は、オメガになりたいのか?』 「別に・・」 俺は、イェイガーに問われて答えた。 「オメガになんてなりたかねぇし」 『なら、主は、どうしたい?』 「俺は・・」 俺は、考えた。 俺は、どうなりたいんだろうか? このまま、ここでずっと安楽に暮らせるわけはない。 ベータの俺を側室にすることだけでも異常なことなんだしな。 いずれ、俺は、また捨てられる。 ならば。 「俺は、決めたぞ!イェイガー」 『何を、だ?』 「決まっている」 俺は、にっと笑った。 「ここにいる間に手に職をつける。王が俺に飽きて捨てられても大丈夫なようにな」 『なるほど』 イェイガーは、すぅっと俺の手元へとおさまった。 『ならば、我は、主の手助けをしようではないか』 「手に職をつけるのになんの手助けがいるんだよ?」 俺がきくとイェイガーは、答えた。 『我は、何百、何千年と生きてきた聖剣ぞ。人の営みなど見飽きてきた。我が知らぬことなど、ないわ』 マジかよ? 「しかし、お前を持ってまわるわけにはいかねぇんだよ。ただでさえ、お前が見つかれば、俺は、ヤバイのに」 俺が言うとイェイガーは、小さな黒い珠の連なる美しい首飾りに変化した。 『これならよかろう?』 おれは、しぶしぶイェイガーを受け入れ首からかけた。 『絶対に主に損はさせぬ。安心せよ』 イェイガーに言われて、俺は、せせら笑っていた。 こんな奴に俺の手助けができるとは思えない。 だが。 俺が、こいつを受け入れるのは、こいつが俺の家族からの最後の贈り物だったからだ。 それ以外に、何の理由もない。 しかし、イェイガーは、俺の後宮生活の思わぬ助けとなるのだった。 それは、俺がイェイガーを身に付けた日の午後のことだった。 俺の部屋の扉をノックする者がいた。 ラウスが開けると、そこには、見知らぬ侍従が立っていた。 「私は、側室のカレウス様の従者をつとめております、クロネと申します」 その灰色の髪の地味な男は、おどおどしながら俺の方を見つめてきた。 「イガー様にはご機嫌麗しく」 「別に、ご機嫌麗しくはないけどな」 俺が言うと、クロネは、小刻みに震えだした。 「は、はい。申し訳ございません。お許しください。どうか、お許しを」 はい? 俺は、泣きながら謝り倒しているクロネを見て呆然としてラウスたちの方を見た。

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