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第28話
3ー4 胸の高鳴り
図書館から出てきた俺たちに背後から誰かが声をかけてきた。
「さっそく来たのか?セイ」
この声は。
俺が振り向くとそこには、王の姿があった。
明るい光の下で見ると王は、若いというよりは、幼いというように思われた。
ぼんやりと立ち尽くしている俺の脇腹をラウスが肘でつんつんとつついた。
「セイ様!王の御前ですよ!」
慌てて俺がラウスと同じようにひざまづいて頭を垂れた。
「いや、いいんだ。セイ」
王が苦笑した。
「お前は、私に礼をとらずともよい」
俺は、ラウスの方を窺ってから頭をあげて立ち上がった。
「ずいぶんと忙しいらしいじゃないか、あんた」
「セイ様!ご無礼ですよ!」
ラウスが言ったのを王が片手をあげて制した。
「かまわん」
「しかし」
ラウスに向かって王は、笑った。
「私がこんなことを許すのは、この者だけだ」
王は、俺に微笑みかけた。
やばいっ!
王のはにかむような優しい笑顔に、俺は、胸が高鳴っていた。
静まれ!
俺は、自分のマントの胸元を引っ張った。
この高鳴りは、決して気づかれてはいけない。
「お、俺・・用事があるんで・・」
「まだ、よいではないか。一緒にお茶でもどうだ?セイ」
王が優しく声をかけてくれたのに、俺は、背を向けた。
「お、俺、急いでるから」
俺は、その場から駆け出した。
部屋に戻ると俺は、寝室へとこもった。
1人になりたかった。
しばらくたってから、ラウスが両手に本を抱えて息を切らせてやって来た。
「いったい、どうされたのですか?セイ様」
「別に」
「別にって」
ラウスは、俺に腹を立てている様で声を荒げはしないものの、怒りを隠そうとはしない。
「王がせっかくお茶にお誘いくださったのに、あんな態度をとられて!」
俺は、そっぽを向くと言った。
「あいつは、そんなことしてる場合じゃないんだろ?」
「しかし!」
俺は、ベッドの掛布へと潜り込んだ。
ラウスは、溜め息をつくと寝室から出ていった。
俺は、ひたすら自己嫌悪に陥っていた。
なんで。
あんな子供相手に、俺は。
もし、このまま、これ以上、奴を知ってしまったら。
いつかは、捨てられる身だというのに。
あいつを愛してしまったりしたら。
俺は、そのとき、耐えられなくなってしまうだろう。
俺は、このまま、あいつの体だけしか知らないままでいたい。
そうすれば、別れのとき、苦しまずにすむかもしれないのだから。
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