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第60話
5ー10 魔人の国
王の言っていることは、俺には、信じられないことだった。
俺が、魔人の国の皇子だなんて。
ありえない。
だけど、王がそれを望むのなら、俺は、王の望む通りにしようと思った。
例え、2度と王に会えなくなるとしても。
俺が失われても、王には、カレイラがいるしな。
宰相の子息であり、本物のオメガであるカレイラなら誰も文句を言うものもないだろう。
それに。
何より、オメガのカレイラなら王の子をなすことができる。
ベータの俺には、逆立ちしてもできないことだ。
そのために俺は、カレイラを教育した。
王の好む、王のための男となるように。
俺は、カレイラに俺の持つ技術の全てを教え込んだ。
それは、俺にとって、胸が焦げるほどに 苦しいことだった。
王に捧げるための男を、自分の手で育て上げるのだ。
俺の胸の中で、喜びと憎しみがせめぎあっていた。
だが、カレイラは、素晴らしい器だった。
後は。
実際に、王に抱かれるだけだった。
そうこうしているうちに、無事に同盟は結ばれ、俺が魔人の国へと旅立つ日が近づいてきた。
特別に王の許可を得て後宮へと通されたトリアニティ王国のあの魔人、実は、騎士団の副団長だったのだというモルアニティは、俺の部屋に来ると俺の前でひざまづいた。
「やっと、あなたをお迎えにくることが叶いました、マナ様」
モルアニティは、まだ魔人である彼を恐れている俺の手をそっととって口づけした。
「ご安心ください、マナ様。私があなたを何者からもお守りいたします」
俺は、本当は、1人でトリアニティ王国へと行くつもりだった。
だが、ラウスとクレイがどうしても一緒についてくるといってきかなかった。
「残れと言われるのであれば、私たちをその剣、イェイガーでお斬りになってください」
ラウスは、俺にせまった。
だけどな。
イェイガーは、魔を斬る剣であって、人を斬ることはできないんだよな。
俺は、そっとイェイガーに訊ねた。
「どうする?イェイガー」
『どうするもこうするも。つれていってやるがいいさ、主よ』
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