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第65話

6ー3 最後の頼み トラウト王は、心配して俺のもとに自分の主治医を寄越してくれた。 だが、診察しようとした医師をラウスとクレイが阻んだ。 「医者ごときが、セイ様の玉体に触れることは許されん!」 というのが彼らの主張だった。 この国の医療は、医者が患者の体に微弱な魔力を流して体内を探るというものだった。 そのためには、どうしても患者の体に直接触れなくてはならなかった。 しかし、ラウスとクレイのために医師は、俺を診察することができなかった。 ラウスとクレイは、俺が毒を盛られているのではないかと疑っていた。 青白い顔色になり、痩せていく俺に、2人は、一刻も早くアリスティア王国へ俺を返すようにとトラウト王たちに訴えていた。 しかし、俺の容態が悪いために、なかなかそうもいかなかった。 こんな姿になった俺を花嫁として嫁がせるわけにもいかなかった。 俺は、別に王の花嫁になんてなれなくってもよかった。 もう一度。 ただ、もう一度だけでいいから、あの人に抱かれたかった。 トラウト王は、俺に王城で1番明るくって広い部屋を与えてくれていた。 豪華に飾り付けられた、その美しい部屋は、今や、死のイメージの漂う場所となっていた。 この部屋を訪れる誰もが暗い表情を浮かべていた。 デザスタを除いては。 この小さな黒猫だけは、元気いっぱいで走り回って、みんなに可愛がられていた。 「おかしいですね」 城の医者たちは、みな、口を揃えた。 「主がこんなに弱っているというのに、契約している従魔がこんなにも元気だとは」 普通、従魔というものは、主から魔力を吸い上げて生きている。 だから、主の体調が悪ければ、従魔にもそれは影響を与えるものだ。 なのに、デザスタは、なぜか、元気だった。 それは、謎だったが、しかし、デザスタの明るさは、俺たちの唯一の救いだった。 もし、こいつがいなければ、俺たち、どうなっていたことか。 俺は、枕元にモルアニティを呼んで、ラウスとクレイを下がらせた。 「きっと、俺は、もうすぐ死ぬ」 俺は、モルアニティの手を握った。 「どうか、俺が死んだらラウスとクレイのことを頼む」

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