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第66話

6ー4 妊娠? 「何を言われるのですか、マナ様。そんなお気の弱いことでどうされるのです」 モルアニティが俺の手を力強く握る。 「あなたが死んだら、私も、一緒に逝きます」 はい? 俺は、涙ぐんでいる副騎士団長を見つめた。 「やめてくれ、そういうのは」 俺は、頼んだ。 「お願いだから、俺が死んでも生きてくれ」 「マナ様!」 愁嘆場を演じている俺たちのもとをたまたま訪れていた1人の魔導師が呟いた。 「もしかして、マナ様は、オメガであらせられますか?」 その魔導師は、魔導師団の一員で薬師でもあった。 俺のために特製のポーションを持参してくれたのだった。 「いや、マナ様は、オメガでは」 「しかし、私のオメガの兄が子ができたときとよく似ているものですから」 その魔導師は、恐る恐る俺たちの方を見た。 マジですか? その話を聞いたラウスとクレイは、はっとして、急に活気づいてバタバタと走り回りだした。 何? 俺は、呆然としていた。 すぐに、王の主治医が呼ばれた。 特別に俺に触れることをラウスたちに許可された医師は、俺の体に触れると診察を始めた。 医師の冷たい指先からビリッと電流のようなものを流されて、俺は、びくん、と体を強張らせた。 その場にいたみんなが息を飲むのがわかった。 しばらく俺の体を見ていた医師は、顔をあげるとニッコリと微笑んだ。 「おめでとうございます、マナ様。あなたのお腹にはお子がおられるようでございます」 はい? 俺は、きょとん、としてしまった。 「なんで?俺、ベータなんだけど」 「ベータ、でございますか?」 医者は、少し黙りこんでいたが、やがて答えた。 「あなたの母君であるユウト様もベータでありながら子をなされたとお聞きしております。きっと異世界人の血を持つものは、ベータでもお子をなすことができるのでございしょう」 「そんなわけが」 俺は、否定した。 「もしそうなら、俺は、今までに何百人もの子がいてもおかしくないぞ?」 「それは・・」 医者が口を開いた。 「おそらく異世界人は、子ができる時期と、できない時期があるのでしょう。ユウト様も子がおできにならないと思われていたにも関わらず、1度高熱を出された後、あなたをお孕みになられたのでございます」 高熱? 俺は、思い出していた。 そういえば後宮に入ってから、1度、俺、熱を出して寝込んだことがあったっけ? 「とにかくあなた様のお体は、今、常の状態ではございません。お体を冷やさぬようにして栄養のあるものを召し上がるようにしてください」 医者がいうには、俺は、信じられないことだが、妊娠5ヶ月ぐらいになるらしい。 マジですか?

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