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第4話
父の怒りは僕ではなく、何故か春楓のお母さんに向いた。
大学院生になって数ヶ月が過ぎた頃、母が僕に会って話をしたいというので講義のない日曜日に喫茶店で会う事にした。
久しぶりに見た母は、少しやつれたように見えた。
「お父さんね、あんたが春楓の事をずっと想っていた事、どうしても理解出来なかったみたい……」
そう言って、母は父が春楓のお母さんの家に怒鳴り込み、
『お前の息子のせいでうちの春希はおかしくなった』
と叫び、ちょっとした騒ぎになったという話をした。
「それでね、響ちゃん、ピアノ教室を閉めてお家も売ってしまって別の場所に引っ越してしまったの……」
母の目には涙が溢れていた。
「……狂ってる……」
僕はそんな父親と同じ血が流れている事が気持ち悪くなり、吐き気がしてきた。
「私もね、あんたが春楓に流されたんじゃないかって思っていたの。だから……響ちゃんが引っ越して行った時、お世話になったのに何の言葉もかけられなかった。でも、あんたと電話で話してるうちに、あんたが自分の意志で決めた事だったんだってようやく思えたの……」
「……どうしてそんな事を僕に話すの?っていうか、そんな酷い事をして春楓のお母さんに謝ったの?ねぇ、どうなんだよ!!」
僕は込み上げてくるものを抑えられなかった。
周囲の事も気にせず、僕は大声で母に迫っていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「僕に会って話す前におばさんに会って直接謝るべきでしょう?……母さんもあの人とおんなじなんだね……」
泣いて謝る母に僕は目も向けず、コーヒー代を払って店を出た。
………………………………………………
僕が全てを打ち明けた時、母は渋々だけど僕の気持ちを尊重してくれたと思っていた。
でも、あの口ぶりだとそれは本心ではなかったみたいだ。
僕のせいで春楓の家に迷惑をかけてしまった。
春楓、この事知っているのかな。
家までの帰り道、僕は春楓に何て声をかけていいのか分からなかった。
帰りたくない。
そんな気持ちにもなったけど、ここでいきなりいなくなる訳にもいかないと思い、僕は重い足取りで家に帰った。
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