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第5話
「お、春希、おばさん何だって?」
家では春楓と春翔が僕をいつも通り出迎えてくれた。
僕にとって、ふたりだけが心から信頼出来る存在だと感じた。
「春楓……ごめんね……」
春楓の眩しい笑顔に僕は胸が苦しくなり、子供の頃みたいに春楓に抱きついて泣いてしまった。
「お、おい、いきなりどうしたんだよ……」
僕は泣きながら、母に言われた話をした。
「……そっか。ははは、俺、最近母さんに連絡してなかったから知らなかった……」
僕の背中を撫でる春楓の手が震えたのを、僕は感じた。
「……僕、今日キックボクシングの日だからちょっと浩を連れて行って来るね。帰る時にまた連絡するから」
「あ、あぁ……」
春翔は泊まりに来ていた職場の後輩、紺野浩を起こすと家を出て行った。
僕の為に気を遣ってくれたんだ。
「お前が悪い訳じゃねーよ、春希」
春翔が出かけると、春楓は背伸びして僕の頭を撫でてくれる。
ずっと変わらない、優しい手。
僕に安らぎと勇気を与えてくれる手。
この手に何度も何度も救われてきた。
「俺が女でお前の子供でも産んでたら、親父さんも文句ねーんだろうけどな。あぁでも、3人暮らしって時点でアウトなのかな……」
春楓の手が、頭から頬に移動する。
「……ごめんな、春希。お前の事守るって言っておきながら辛い思いさせて……」
「春楓……」
その唇が僕のと重なり、すぐに離れた。
「それでも俺は……どんな事があってもお前の傍にいるから。だからお前も俺から離れるなよ、春希」
僕を見上げる大きな瞳。
その瞳もずっと変わらず、気高く美しい。
春楓みたいな絶対的な強さも優しさも、僕にはない。
だからこそ、春楓に惹かれるんだと思う。
「うん……」
「てかさ、お前泣きすぎ。メガネ、めっちゃ汚くなってるぞ」
「あっ、ごめん……」
僕は涙で汚れた眼鏡を外し、持っていたハンカチで拭こうとした。
「……けど、俺、お前がそうやって昔みたいに泣いて甘えてきてくれると、スゲー嬉しくなるんだよなぁ……」
……あぁ。
やっぱり僕は春楓が大好きだ。
僕にこうして笑いかけてくれる笑顔がいとおしくていとおしくてたまらない。
「…………」
眼鏡を拭くと、僕は春楓を抱き締め、その唇にキスをした。
「春楓……愛してる……」
もう数えきれないくらい言っているのに、それでも胸の中にこの言葉が浮かんで、口に出てしまう。
でも、春楓は嫌な顔ひとつせず照れくさそうに笑って、
「ありがとな、春希。俺も……愛してるよ」
って言ってくれたんだ。
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