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第6話

春翔がいないのをいい事に、僕は春楓を抱いた。 「さっきまでめそめそしてたくせに……っ……」 「……だって、せっかくふたりきりなんだよ?春楓が僕だけを見てくれる貴重な時間、何もしないとか有り得ない……」 「おま……っ、首はダメだって、こないだ新庄さんに怒られたんだぞ……っ……」 ひとつになりながら少し日に焼けた細くて綺麗な首筋に僕の跡をつけようとすると、春楓に止められる。 「そうなんだ……じゃあこっちにする……」 「い……っあぁ……っ……!!」 昔は苦手だったキスマークをつける時の力加減も今はちゃんと加減できるようになっていたけど、今日は気持ちが昂って、つい付き合い初めの頃みたいな跡を胸元につけてしまった。 でも、春楓の身体はそんな僕の行為を悦んでくれた。 「やっぱり春楓は少し痛いくらいが気持ちいいんだね……」 「うぅ……っ、春翔に怒られても知らねぇぞ……っ……」 「……平気だよ。春楓が悦んでくれたら後はどうでもいい……」 「んん……ッ、はるき……っ」 僕の背中に腕を伸ばして抱きついてきてくれる春楓。 「はるか……っ……」 その温もりを、僕は噛み締めた。 ……………………………………………… 母親からの連絡を拒んでから、5年は過ぎていた。 僕は大学院を卒業し、幼稚園教諭として春楓たちと一緒に働き、去年からは事務長を兼務させて頂けるようになった。 園長先生が春楓のお母さんを招いて子供たちの為のコンサートをする、と突然言い出したのは春翔が見つけた、少し訳ありだけど優秀そうな職員も加わって新年度が始まってすぐの事だった。 僕は、父の事があったからおばさんに謝ろうと決意していたんだけど、いざおばさんを目の前にしたらその言葉がすぐ出て来なかった。 コンサートの後、おばさんは僕らと話がしたい、と言って園長先生が立ち会いの下、職員室で話をする事になった。 「これ、お母さんから預かってきたの……」 僕と春翔の母親と3人で会ったという話をして、僕らに封筒を渡してくれた。 白い封筒に書かれた、『春希へ』 の文字は震えているように見えた。 「おばさん、ごめんなさい。僕のせいで……」 手紙を受け取ってはじめて、僕はずっと言わなきゃと思ってきた言葉を口にし、その場に土下座していた。 「春希くん、そんな事しないで。あなたは赤木さんに自分の想いを伝えただけなんだから……」 「でも……」 「元々、向こうの楽団からオファーがあって、海外に行こうと思っていたところだったの。本当よ」 その笑顔は、春楓そっくりだった。 「それよりも、春希くん……」 おばさんは僕に父の話をし、会いに行くように言ってきた。 今までの事を思うと、とてもそんな気になれなかった。 おばさんを泣かせてしまうくらい父に会うよう言われたけど、僕は決して首を縦に振らなかった。

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