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第10話

『ライブ、おじさんにも観てもらおうぜ』 春楓のその一言が僕を動かした。 母にオンラインライブの話をし、僕を小さい頃から知っている父の部屋の若手の親方に協力してもらい、父の病室でライブが見えるように準備してもらった。 ライブ当日。 最終確認のリハーサルの時、僕は明日南に尋ねていた。 「君はこの歌が何番まであるか知ってるの?」 「Of course!!当然だよ。だからこそこの曲を選んだんだ。僕はね、この曲の6番がすごく好きなんだ」 笑顔で話す明日南の言葉に、僕は自分の胸が大きく脈打つのを感じた。 「……僕の父も好きだよ、6番の歌詞」 「WOW!Englandでもファンの多い偉大な横綱として有名な君のお父さんと同じなんて嬉しいよ!それで君が弾く事になったんだね!!」 「うん……そう……」 僕は興奮ぎみに話す明日南にどんな顔をして答えたんだろう。 いつものように、ただ事実を淡々と話せただろうか。 ……………………………………………… 『それでは次も夏をイメージさせる1曲、『われは海の子』です。この曲、7番まで歌詞があるのをご存知でしょうか?今回のライブでは、父パンダが7番まで演奏します』 いよいよ、その時が来た。 僕はパンダの被り物をすると、ピアノに向かい、弾き始めた。 父さん。 この曲、父さんの為に精一杯弾くから。 僕は、家族で海水浴に行き、その時父が曽祖父と祖父の為に歌おうと言って、海に向かって一緒に歌った日の事を思い浮かべながら弾いた。

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