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第12話
ライブの後、親方が協力してくれたのか、母から父が感想を話している動画が送られてきた。
痩せて誰か分からなくなっていた父の姿は、子供の頃に見た写真の祖父そっくりに見えた。
「おじさん……」
春楓と春翔も一緒に見ていて、ふたりも父の変化に驚いていた。
『春希、演奏聴かせてもらったぞ。あの頃よりずっと上手になっていたな……』
話しながら、父は涙を流していた。
『思えばピアノだってお前から言った訳じゃなく、俺と母ちゃんがやりたくても出来なかったからっていう理由だけでお前にやらせたのに、お前はいつも嬉しそうに、楽しそうに弾いていたな……』
明らかに弱っている父の姿を見ていると、胸が苦しくなる。
『春希、俺はもうそんなに長くない。だから死ぬ前にお前に直接謝りてぇんだ。一度で、ほんの少しでいいから、話をさせてくれ』
そこで父の動画は終わった。
僕は父の口から飛び出した言葉に、頭が真っ白になり、血の気が引いていくのが分かった。
「嘘だ……」
「春希、落ち着いて」
「この人、父さんじゃなかったんだよ。僕の知ってる父さんはもっと大きくて、強い心の持ち主で、こんな……」
「春希!!」
あぁ。
今日、僕はどれだけ涙を流せば気が済むんだろう。
どれだけふたりに気を遣って貰えば気が済むんだろう。
「分かる、分かるけどさ、少し落ち着けって!!」
「そうだよ、本当にそうなのかおばさんに確認した方がいいんじゃない?」
「……でも……」
怖かった。
何の心の準備もしていないのに、父の話す事が真実だったら。
父と分かり合えないまま、近いうちに別れてしまうかもしれない事が。
「……春希、電話貸して。僕がかけるよ」
そう言って、春翔が泣いている僕からスマホを取り上げるとそのまま母に電話をかけてしまう。
「あ、おばさん?ご無沙汰しています、春翔です。お元気ですか?済みません、3人で送って頂いた動画を観ていたんですが、春希が取り乱しちゃって……」
僕は、その様子を呆然と見ていた。
「あぁ、そうなんですね。分かりました。春希が落ち着いたら連絡するように言っておきますので。じゃあ……」
春翔はすぐに話し終えると、僕にスマホを返してくる。
「おじさんの思い込みらしいよ。退院の目処がたってないだけで余命宣告されたりしてないって」
「……退院の目処がたってないってどういう事……?」
「さあ。自分でお医者さんに聞いてきたら?」
僕が尋ねると、春翔はそう言った。
「そうだな、春希、おばさんに病院聞いて会いに行って来いよ」
「……うん、そうする。ふたりとも、ごめんね……」
春楓と春翔に再び背中を押され、僕は父に会う決意をした。
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