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第10話

昼休み、屋上に着くや否や、右隣に座る慶太が肘でつついてきた。 左隣の奏斗はなにやら、恭一や大貴にパンを振る舞い、会話中のことだ。 『ほら、アレ』 慶太が顎で指し示す先。 奏斗より1メートルちょっとくらいだろう離れた先に、髪は茶髪というより、ほぼ金髪で、白のワイシャツのボタンは2、3個は外し、胸元ははだけ、ネックレスを輝かせた、ノーネクタイの派手な生徒が立ち尽くし、奏斗の後ろ姿を凝視していた。 『タ・グ・チ』 田口...。 奏斗が恭一、大貴と話している隙に、慶太とひそひそ話。 『例のアレか?奏斗を好きだとかいう....』 うんうん、と慶太が何度も首を縦に振る。 食事の最中も、いつまでも、奏斗の後ろ姿を見て、立ち尽くしていた。 (お前は奏斗の背後霊か!) さりげなく、塩はないので、ミートボールを投げつけてやろうと考えた。 さすがに白いワイシャツを汚す程、投げつけることはできないので、せめて、あの真っ白の上履きを汚してやろう、と少しだけ、勢いをつけ、ミートボールを落としたフリをして投げた。 が、転がっていくミートボールはすんでのところで止まってしまった....。 後で俺が拾いに行こう、と思っていたが、環境にまで優しい弟、奏斗は俺よりも先に俺がぶつけ損なったミートボールを拾いに行ってしまったのだ....。 まるで、野犬の元に向かう、無知な白うさぎ...。 俺の投げつけ損ねたミートボールの変わりに、ひっそり、自分の弁当箱からミートボールを入れ、何事もなかったかのように、 『美味しいね!お兄ちゃん!』 なんて笑顔を俺に向けた。 そんな優しく、可愛い、弟、奏斗が....。 更に激しく俺は髪を掻き乱した。

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