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第19話

う、動けない。 俺、優斗は奏斗の頭を肩に置いたまま、駅のベンチに座り、次々と電車を見逃している。 突然、おぼつかない足取りで、 『隣いい?』 と弟の奏斗は隣に座るなり、俺の肩を枕にし、眠ってしまった。 俺、優斗も今日からは新しい自分になる!と決め、少しのドジもしないように注意に注意をはらい、気疲れしているし、筋トレで多少、筋肉痛でもあるが....。 なんだか、今日の奏斗は元気がなかったように思う。 ふと、見下ろした先に奏斗の寝顔がある....。 不意に、その寝顔に、ドキッとした。 小さな卵形の顔、閉じた瞼の長い睫毛、可愛く通った鼻筋、....薄く開いた小さな口。 俺は思わず、唇を噛み締め、正面を向き直る。 そして、再び、奏斗の寝顔を見つめる。 繰り返していた。 この駅には駅員はいない、いわゆる、無人駅だが、起こすに起こせない自分がいる。 ....しかし、兄弟とはいえ、こんなに間近で寝顔を見たことはなかったなあ....。 しんみりと、俺の肩に頭を置き、すやすや眠る、奏斗の可愛らしい寝顔を見下ろした。 (....無防備なヤツめ) 奏斗の寝顔を笑顔で見つめていたが、徐々に顔を近づけた。 軽く触れただけの互いの唇。 無意識だった。 慌てて顔を上げ、ドクドクと激しく脈打つ胸を堪えた。 (....き、キスしてしまった....) 兄弟なのに。 互いにΩなのに。 俺はお兄ちゃんなのに! う、うーん、と奏斗が小さく唸り声を上げ、再び、ドキッとした。 「か、奏斗、起きてたのか?」 引き攣り笑いの俺に、奏斗がハッとした顔をし、俺も尻込みした。 (奏斗に謝らなくては....) 「電車は!?お兄ちゃん!真っ暗じゃん、どうして起こさなかったの?」 奏斗は既に電車は無くなり、真っ暗になった空に驚いていただけだった。 「ご、ごめん、お前、奏斗が気持ちよさそうに眠ってたから起こせなかった」 呆然とベンチに座る俺に、 「そっか、ありがとう、お兄ちゃん」 奏斗は眠たそうな瞼を擦りながらも笑顔を向けた。 奏斗の邪気のない笑顔....。 寝ている奏斗にキスをしてしまった後ろめたさが容赦なく襲ってきた。 今晩は眠れない夜になりそうだ。

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